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昭和40年の第3回汎太平洋リハビリテーション会議で「住宅間題と身体障害者」のテーマで講演されたMontgomery女史より本書の初版をゆずりうけて以来,9年間幾度も読み返し,参考にしているが,そのつど新しく得ることが多い.このことはこの書が単に身障者のための建築設計資料集成として包括的に,好ましくまとめられているのみならず,著者Goldsmith氏が建築家として身障者を含めた新しい生活環境をつくり出す基準はいかに設定すべきかについて氏なりの理念を持っていることによる.さらに図・寸法をそのままうのみに応用できない程,注釈をきめ細かに記述してもいる.現在,なお試行錯誤で参考資料の少ないこの分野では貴重な本であるといえる.
本書は1963年に初版を出し,1967年に再版されている.初版では身障者が効果的に使えるように計画された建物はすべての他のものにも使いやすいという前提で論を進めていたが,再版ではこのことに対して厳しく再評価をする態度にあらためられ,いかにして健常者と身障者間の調和を計るか,または身障者が一人で独立して使用できることを前提とした基準にあまり固執しないで,介助も前提とすべきであるなど,健常者,身障者の相互間の許容できる基準をつくるべき姿勢が見うけられる.内容としては初版は住宅のみを扱っていたが,再版では公共建築にまで枠を広げている.再版された本書は9節より構成されている.次に各節について概要を述べる.第1節は身障者人口と題して,序論的な注釈を行っている.ここでは建築によりハンディキャップを負う人口の実態を明らかにし,さらに建物を利用するにあたっての制約条件を述べ,第2節以降で述べる設計基準に対して,その関連性のあり方を提示している.第2節には全般に関連のある補助的データが含まれている.すなわち歩行可能な身障者と車いす使用者の人体測定,運行・歩行スペース,および各種の車いす,リフト,補助具などについて概説している.第3,4節では主要なデータについて論じている.まず第3節では階段,ステップ,ランプ,手すり,窓 ドア,床仕上げなどビルディングエレメントについて,第4節では廃物の処理,給水,暖房,電気,コミュニケーション,リフトなどのサービス設備について述べている.第5節は入口,通路,台所,居間,食堂,寝室,便所,洗濯収納,ガレージ,駐車スペース,庭,バルコニーなどについて述べて,対象者は車いす使用者を中心に歩行可能な身障者,盲,ろうも合せて述べている.第6,7節は公共建築物について述べている.先ず6節に一般的な適用についての情報を記述していて,ここでは主に歩行可能な身障者と車いす使用者を主たる対象とし,盲,ろう,上肢障害のみの身障者についてはそれほど強調していない.なお,すべての公共建築に推奨されるべき基準として出ている項目は駐車場,アプローチ,ドア,手すり,床仕上げ,電話,リフト,標識などであり,最低必要とするレベルと望ましいレベルの2種の仕様で表現している.第7節は住宅を除いた他の公共建築物と身障者が主に使用する諸施設について,建物別に,(a)全般的な事項,(b)アプローチ,(c)内部のサーキューレーション,(d)衛生と便所施設について述べている.第8節は住宅について述べているが,ここでは歩行可能な身障者と幾分歩ける車いす使用者,車いすのみに頼る(Chairbound)身障者に区分して詳しく述べている.住宅の種類は公営住宅から個人の住宅まで網羅しており,改築から新築まで幅広くおよんでいる.最後の第9節には各種設備機器のコスト,語彙,参考資料リストをまとめて,全巻を終らしている.
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