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今日われわれを囲む建築施設は,非常に多くの種類があって,しかも更に増加し細分化して行く傾向があるように思われる.しかしそれらは,全く無秩序に生成し存在しているのではなく,少なくも次の2つの事柄が認められる.第1は,すべての建築施設は結局すまいを源(みなもと)として発生発展して来たもので,そこに派生の系譜ともいうべきものが認められること.第2に,これら施設ほバラバラに存在しているようにみえても,互いに機能的類縁に応じてグループを形成するよう社会的に要請されており,各種施設は施設系列あるいは施設体系ともいうべきスペクトラムの中に位置づけられるということである.しかも,スペクトラムの一端には常に居住施設が位していて,このスペクトラム全体は,実はすまいのある側面が時代とともに発展し,時代に適合して再生産された姿にほかならないと見られるのである.こう考えてくると,前にあげた2つの事柄は,別々のものではなく,“すべての建築がすまいから発生したものである”という1つの事柄の2つの側面であることがわかる.今日,施設の過度の分化が人間の疎外をきたしているといわれ,分化に対して総合が重視されようとしているとき,このような建築の本質を認識することが極めて重要であると思われる.
さてここでリハビリテーション施設についてみるならば,これは明らかに病院や社会福祉施設から分化しようとしているものではあるが,さらに遡ればすまいを源としていることは明らかであり,また,保健医療施設から社会福祉施設,さらに居住施設に及ぶ各種施設は,必ずしも線的に表現しえないまでも,ひとつの体系としてスペクトラム上に位置づけられてはじめて充分の機能を発揮するものであることも了解されよう.もともとすまいは,他の多くの機能とともにやまいをいやす治ゆあるいはかんごの機能も持っていたが,近代になってから多くの種類の施設に分化して次第に本来の機能を失い,今日では住居は医療機能の一部を果すにすぎないものとなったのである.とくにリハビリテーション施設は,医療施設と居住施設の間に位置することから,これら両施設をリハビリテーション施設と関連づけて,たとえば病院の中にリハビリテーションの準備的機能を組込むことは勿論,住宅地に身障者や老人のための住宅を整備して,患者がスムースに移動しうるようにすることなどによって総合的効果は非常に高まるであろう.一方,リハビリテーション施設自体は,住居と特別に深い関連があることを悟り,すまいの持っていた本然的な治ゆ回復機能の厚味を蓄えて行くことが,この施設の健全な発展に極めて大切なことであると思われる.
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