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はじめに
リハビリテーションの総合的定義としてしばしば用いられる定義に,全米リハビリテーション協議会が採択したものがある.すなわち“リハビリテーションとは障害をもつようになった者の肉体的,心理的,社会的,職業的,経済的有用性を可能な最大限度まで回復させることである”と.これは障害者を全人格的にとらえた見方であり,障害者の肉体的,心理的,社会的,職業的,経済的な側面のどれか1つにでも問題があれば,その障害者は真にリハビリテートしたといえないことを意味している.
リハビリテーションはあらゆる諸科学の総体として位置づけられる.それゆえ1人の障害者をとりまいてリハビリテーションのための種々の専門技術が存在するわけである.そしてその実践形態としては,医学的リハビリテーション,職業的リハビリテーション,社会的リハビリテーション,教育的リハビリテーション,心理的リハビリテーションがあげられる.これらの実践技術は,障害者のニードに応じて駆使され,おのおのの側面がお互いに障害者のニードと問題を上手にパスし,カバーしあい,ゴールへと障害者を運ぶところにリハビリテーションのプロセスが存在するのである.
しかしながら元来の日本のリハビリテーションは,医学的リハビリテーションか,それとも社会的リハビリテーション(この場合職業,教育,心理的リハビリテーションを含めて)かというように,リハビリテーションを二元的にとらえて発展してきた.しかしその結果として,最近ではおのおのの分野でお互いに行きづまりを感じ,従来のあり方に反省がなされる現状となってきた.そこでこの二元性を早期に打破し,いわゆるメディカルとソーシャルの側面が一連のプロセスとして機能することが今後の日本のリハビリテーションの課題であると考える.
これはリハビリテーションに携わる職員の嘆きからもわかるように,現在の日本の社会環境,制度の中にリハビリテーションの育つ素地があまりにも少ないことである.それゆえ,これ以上1人の障害者を取り巻いて各専門家が縦割に,小刻みに関与するのは止めなくてはならない.リハビリテーションを成功させるには,リハビリテーションに従事する専門家の職業意識の同一性と危機への連帯感を一層強化し,広く地域住民そして国民を巻き込む姿勢を打ち出さなくてはならない.これからは慈善的な処遇とか,施設収容主義,そして隔離主義から障害者を守り,民主主義の基盤の上に立って,社会の中の障害者を育成,援助することを目指すことが重要である.
以上のような課題を頭におき,医学的リハビリテーションと社会的リハビリテーションが結びつく努力の一歩として,この講座では障害者が活用しうる社会制度や社会資源を数回にわたり具体的にわかりやすく紹介する.これはソーシャルワーカーばかりでなく,他の分野の専門家にも大いに活用していただきたい.また同時に,具体的な事例を時には引用しながら社会制度の不備な点や疑問にもふれて,障害者の社会復帰上の問題点を指摘していきたい.
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