診察術の歴史・9 The Evolution of Physical Diagnosis
ウィリアム・ヘベルデン卿―イギリスの傑出した臨床医
Gude James K.
1
,
吉原 幸治郎
2
2佐賀医科大学総合診療部
1University of California-San Francisco, Medicine & Community Medicine
pp.280-281
発行日 1993年3月15日
Published Date 1993/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414900791
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18世紀の傑出した臨床医
ウィリアム・ヘベルデン(William Heberden,1710~1801)はトーマス・シデナムの死の21年後に現れた傑出した臨床医であった.彼の狭心症,脳卒中,乳癌,糖尿病,血栓性静脈炎に関する記載は18世紀の医療から20世紀の医療へ踏み出したものであった.すなわち,産業革命後,疾病構造は急激に変化し,感染症から彼が記載した癌や動脈硬化性疾患などへと推移していったのである.彼の代表作「疾病の自然史と治療に関する解説」は1782年にラテン語で書かれたが,英語に翻訳されたのは彼の死後であった1)ヘベルデンは英語での出版を望まなかった理由を次のように述べた.「本を書くことは人間の精神や知性を成長させ,十分な満足感を与えてくれる.しかし,一般に名声を得た人間はありとあらゆることを書いては出版するため,むしろ信用を失うものだ.」2)
ヘベルデンは1710年にイギリスのサウスワードに生まれた.彼はケンブリッジ大学で医学を学び,1748年にロンドンへ移るまで,大学で医療に従事した.彼は2度の結婚をし3人の子供があったが,息子であるウィリアム・ヘベルデン・ジュニアが彼のラテン語の遺作を英語に翻訳した.ロンドンでのヘベルデンは病院に所属することなく医療を行った.その当時の彼の印象を,周囲の人々は,「彼はこれまで見たこともないほどに痩せて,背の高い男であった.しかし,その顔貌は非常に聡明で,健康的であった.」と述べている.
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