Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
中村真一郎の『雲のゆき来』―元政上人の無抵抗主義
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.1016
発行日 2011年10月10日
Published Date 2011/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552102252
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『雲のゆき来』は,1966年,中村真一郎が48歳の年に発表した作品であるが,そこには江戸時代初期の僧侶元政上人(1623~1668)の病いに関する記述が認められる.
元政上人は,若い頃は江戸の噂になるような艶名を流しながら,その後,京都郊外に隠棲してすぐれた詩文を残した日蓮宗の僧侶であるが,彼の人生で注目されるのは,生涯多病とでも呼ぶべき人生を送ったことである.中村によれば,「毎年,春になると,病気は忘れずに訪ねてきて,上人の肉体のなかに滞留する」.たまたま,ある年病気が起きないと,翌年には2年分の大病が押しかけたし,夏は「湿魅」が皮膚の下に忍び込んだ.上人自身,「吾レ年未ダ四十ナラズシテ,筋骨先ヅ早クツカル」と,杖なしでは歩けないわが身を嘆いているが,中村も「自然のなかを逍遥するのを愛した彼には,この足腰の弱りは打撃だったろう」と推測するのである.
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