Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
アリストパネスの『雲』―精神障害者としてのソクラテス
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.82
発行日 2009年1月10日
Published Date 2009/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101431
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紀元前423年に上演されたアリストパネスの喜劇『雲』(田中美知太郎訳,筑摩書房)はソクラテスを批判した作品として有名であるが,そこに登場するソクラテスは精神障害に関わりの深い人物として描かれている.
『雲』は,ある年老いた父親が息子をソクラテスに弟子入れさせようとする話である.しかし,ソクラテスへの弟子入りをめぐる父親とのやり取りのなかで息子は,ソクラテスのことを「悪いダイモンに憑かれている」とか「蒼白い顔をして,履物もはかないでいる連中」と,明らかに病的な人物として蔑視している.実際,その直後に登場するソクラテスは,一人釣りかごのなかで天空のことを思案しているという奇人なのだが,ソクラテスの感化を受けた父親は,息子から次のような批判をされる状態に陥っている.「お父さん,いったいどうしたんです,こりゃ正気の沙汰じゃありませんよ」,「あんな,いかれた連中の言うことを真にうけるなんて,気違い沙汰もひどすぎますよ」,「親父は気が違っている.裁判所へ訴え出て,精神異常の確認をしてもらおうか,それとも棺桶屋に親父の気が変になっていることを話しておく方が,いいか知らん」.
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