Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
クセノフォンの『ソクラテスの思い出』—長男への説諭
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.90
発行日 2022年1月10日
Published Date 2022/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202411
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紀元前385年ごろの完成と推定されているクセノフォンの『ソクラテスの思い出』(佐々木理訳,岩波書店)の第2巻2章には,長男のラムプロクレースに母親への恩義を説くソクラテスの姿が描かれている.
この時ソクラテスは,「母親に腹を立てている」長男に向って,「倅,お前は恩知らずと呼ばれる人間があるのを,知っているか」と問いかける.すると長男は「知ってますとも」と答えたため,ソクラテスがさらに,「もし人がひとしお大きい恩を受けて感謝を表わさなかったら,ひとしおひどい不正ではあるまいか」と問いかけると,長男はそれにも同意したため,ソクラテスは次のように親の愛を説く.「われわれは子供が親から受けているよりも,もっと大きい恩を人から受けている者を,ほかに見つけられようか.親のおかげで子供は初めてこの世に存在を得,親のおかげで神々が人間にお与えになった実にたくさんの美しい物を見,実にたくさんの善い事をたのしめるのだ」.
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