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はじめに―筋ジストロフィーと治療研究の現状
筋ジストロフィーは,「筋線維の変性・壊死を主病変とし,臨床的には進行性の筋力低下をとる遺伝性疾患である」と定義されており,筋線維内の細胞骨格から筋細胞膜を介して細胞外の基底膜を連結している細胞外基質タンパク質,筋細胞膜タンパク質,筋細胞膜結合タンパク質をコードする遺伝子の異常により引き起こされる(図1).
筋ジストロフィーのなかで最も発症頻度が高く,重篤な経過を示すものにX連鎖性遺伝を示すDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)がある.DMD患者の多くは2~5歳で歩行障害により発症し,その後,筋力低下が次第に進行し,16歳以前に歩行不能となる.さらに,呼吸筋や心筋の障害も加わり,30歳前後で呼吸不全や心不全で死亡する.最近では,血液検査などにより無症候性のまま見いだされることも多い.原因遺伝子はXp21に局在するジストロフィン遺伝子であり,ジストロフィンをコードしている.DMDでは,ジストロフィン遺伝子の欠失,重複,逆位,ナンセンス変異,スプライシング異常によりアミノ酸の読み枠がずれるアウト・オブ・フレームとなり,ジストロフィンが産生されない.ジストロフィンは,筋細胞膜直下に存在する筋細胞膜裏打ちタンパク質であり,F-アクチンとジストロフィン結合タンパク質に結合して,ジストロフィン-糖タンパク質複合体(DGC)を形成し,筋細胞膜の安定性に寄与している.ジストロフィンの欠如は細胞骨格と基底膜の連結を劣化させ,筋形質膜脆弱性を増加させて,筋線維の変性・壊死を招く.また,DGCに関連したチャネル,機能分子の機能障害を介した細胞膜透過性の亢進,細胞内イオン・チャネルの調節障害,および筋代謝の異常を引き起こす.
ジストロフィンが欠損する病型にはDMDのほかに,Becker型筋ジストロフィー(BMD)がある.BMDは一般にアミノ酸の読み枠が保たれるイン・フレーム変異のため,不完全ながらも機能的な短縮型ジストロフィンが存在することから,DMDよりも軽症となる.短縮したタンパク質が正常なジストロフィンと同等の機能を果たすこともある.
近年,心肺機能の管理の飛躍的な進歩により,DMD患者の寿命は以前と比べ10年以上延長している.しかし,現在の治療は,コルチコステロイド剤などの薬物療法,理学療法,呼吸不全および心不全対策に限られ,遺伝子変異そのものを標的にしたり,遺伝子からmRNAを介してタンパク質に至る転写・翻訳過程をターゲットにした先進的な治療法は確立していない.そのため,機能的なジストロフィンを全身性に発現させることを企図した安全性の高い先進的な治療法の確立が強く望まれてきた.これまでにマイクロ・ジストロフィン遺伝子とアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療,筋衛星細胞,筋芽細胞,骨髄間質細胞あるいはメサンギオブラストを用いた幹細胞移植治療,薬物治療(ユートロフィン発現増強療法,抗マイオスタチン療法,リード・スルー療法など)の開発研究が精力的に行われている1,2).
本稿では,臨床応用が最も近いと考えられているアンチセンス・オリゴヌクレオチド(AOs)を用いたエクソン・スキッピング誘導療法の原理と研究の進展状況を中心に概説する.
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