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この5,6年程,血液透析患者を診察する機会が増えた.本邦の血液透析技術の進歩は目覚ましく,著しい延命効果をもたらしている.20年を超えて血液透析療法を続けている患者も珍しくなくなった.その一方で,透析患者の体力や精神心理状態は必ずしも良いわけではなく,それによってQOL(quality of life)も損なわれていることを目の当たりにしている.ほとんどの透析施設では,積極的に最新の透析法,薬物療法や栄養療法を取り入れている.しかしながら,運動療法については個々の患者に任せっきりにしている.このことが原因の一つではないかと考えた.積極的に運動している患者がいる一方で,多くの患者は運動療法の重要性を知ることもなく,透析施設でも自宅でも安静にして過ごしている.医療スタッフも運動療法の重要性をあまり認識していない.そこで私は,運動療法も透析治療の重要な構成要素であることを透析患者や医療スタッフに理解していただき,透析中の運動療法を普及させる取り組みを開始したのである.
ある日,このような取り組みを後押ししてくれる出来事があった.大学卒業後,部活で行っていたバドミントンをする余裕もなく,研究や診療に身を置いてきた.40歳代も半ばを過ぎた頃,ひょんなことから大学時代の部活の後輩に会い,今でも続けていると聞かされた.そうしたら,無性に懐かしくなり「またやってみたいなあ」と,つい,もらしてしまった.すると,今度,職場でバドミントン大会があり,メンバーが足りないから出場しないかと言うのである.大会に向けての練習会があるから,ぜひどうぞと言うので練習会に行ってみると,なにやら人一倍大きな声をだし,明るく元気にプレイしている一人の中年女性に目がとまった.その様子からして明らかに上級者である.しかし,次の瞬間,ラケットを握る彼女の腕を見て驚いた.その腕には一筋の蛇行した太い血管が浮きでていたのである.そう,彼女は血液透析患者なのである.お話を聞くと,透析をするようになってから体力の衰えを自覚するようになり,周りの透析患者のように安静にしているばかりでは体力が維持できないと思い,若い頃に行っていたバドミントンを続けるという目標を立てて普段から体力作りをしていると言う.そのおかげで,透析開始前と同じように動けるし,競技会にも出場できるようになりました,と明るく答えてくれた.
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