Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「サラエボの花」―戦時性暴力のトラウマと向き合う
二通 諭
1
1石狩市立花川南中学校
pp.511
発行日 2008年5月10日
Published Date 2008/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101255
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「サラエボの花」(監督/ヤスミラ・ジュバニッチ)の主人公エスマは,12歳の娘サラと暮らすシングルマザーだが,バスの中で胸毛の男が側に立っただけで気分が悪くなり下車してしまうし,ウェイトレスとして働くクラブで女たちが男性客と戯れる場面を目にするだけでトイレに駆け込み,薬の力でその場をしのぐ.なにか「トラウマ」を背負っているらしいということは容易に察しがつく.話は飛ぶが,岩手県で千年以上も続く裸祭りの観光ポスターがJR駅構内での掲示を拒否されたことが全国区のニュースとなったが,たしかにエスマならそのポスターを避けるだろう.
劇中でも語られているが,チトー(80年没)が健在だった昔のユーゴスラヴィアはそれぞれがバカンスを楽しめるような生活を送っていた.ソ連と一線を画した独自の社会主義国として光彩を放っていた.チトー死後の84年にはサラエボで冬季オリンピックが開催され,世界標準の常識,倫理を有している国だと思われていた.それが90年代に入って,民族,宗教の違いを背景に紛争勃発.ムスリム人,セルビア人,クロアチア人が対立した92年から95年にかけてのボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争では,本作で告発した民族浄化作戦の一環としての虐殺と被害者2万人という集団レイプが組織的に展開された.
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