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アルツハイマー病Alzheimer Diseaseは原因不明の,破壊的・非可逆的に進行する大脳の疾患である.高齢者に多く,発症率は90歳まで指数関数的に増加する.このため高齢人口が多くなった先進国社会を悩ませる事象の一つになっている.疾患は徐々に進行し,患者から次第に記憶,見当識,注意,空間認知,遂行機能などの認知機能を奪っていく.ついには感覚や運動機能が廃絶した失外套症状態のまま寝たきりとなる.発病の初期には記憶が失われ,患者はアイデンティティを失う恐怖に怯える.さらに進行すると,被害妄想などの精神症状や暴言・暴力,徘徊,不潔行動などの問題行動が起きることがあり,これらは介護者への多大な身体的,精神的負担になる.わが国でも団塊世代の高齢化があって,脳血管性認知症の増加とともに,アルツハイマー病は保健・医療・福祉の大きな課題になっている.
アルツハイマー病と診断され,ある程度病気が進行すると,その人は破壊され,存在しなくなった人のように扱われることがある.本書のメッセージは,認知症患者と意思疎通を図ることに工夫をすれば,患者と介護者双方のQOLを,より長く良好に保つことができるというものである.本書の原題は,Learing to speak Alzheimer'sである.患者は言葉を用いたコミュニケーション能力を失っていく.著者は読者に対し,言葉に代わる方法で患者と意思疎通を図ることを学習しましょうと呼びかけている.たとえば,介護者は,自分が所属している通常の現実に合わせて患者を諭したり,事の善し悪しを説明しようとしがちである.そうではなくて,患者が感じている現実を共感して,その流れのなかで対処することを勧めている.これによって,患者も介護者も満足を覚え,さらに介護することが喜びにもなると述べている.このような考え方で患者に接する方法を,著者はハビリテーションhabilitationという言葉で説明する.ハビリテーションとは,通常は障害児の療育を指す用語である.しかし,ここではアルツハイマー病患者のために著者が展開してきた革新的ケア手法の理念を説明する用語として用いている.ハビリテーションの内容は,5つのカギ(原則)で示されていて,読者の理解を助けている.本書は,特に病態が初期の患者とその家族に対して,具体的な考え方と対処法を示している.
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