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はじめに
昨年(2006)の第61回国連総会において採択が成った「障害者の差別撤廃と社会参加を目的とする人権条約」(以下,障害者権利条約)は,本年(2007)9月28日(日本時間9月29日)に,ニューヨーク国連本部にて,わが国政府においても条約への署名が実施された(署名者は,高村正彦外務大臣).署名によって,大きく2つの点で進展をみることができる.一つ目は,外務省から日本語版仮訳が公表されたことである.もう一つは,今後批准(衆議院での承認)に向かうことになろうが,署名によってそれへの前提となる条件が整えられたことになる.
現時点での最大の関心事は,批准がいつ頃になるのか,国内の関連法制の創設や改正がどのように進められていくのか,ということになる.筆者なりに,障害者権利条約の進捗状況を比喩的に表すとすれば次のようになる.例えを登山とした場合に,登山の入り口に当たるのが昨年12月の国連総会での採択だった.今般の署名は,3合目ぐらいに当たるのだろう.ここで問われるのが,頂上の状態をどうイメージするかということであるが,重要なことは批准は頂上ではないということである.頂上はあくまでも国内法制の変革であり,となると批准もまた7合目か8合目とみるべきであろう.すなわち,国連総会での採択も,国内での署名や批准も,これらはすべて手段であり,目的は国内法制を好転させていくことに他ならない.
なお,障害者権利条約が採択に至るまでに,国連での政府間交渉のなかで一貫して尊重されたフレーズがあった.それは,「私たち抜きで私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)とした国際NGOの主張である.わが国における今後の条約をめぐる動向にあっても,このフレーズを肝に銘ずべきであることを冒頭で強調しておきたい.
以下,障害者権利条約の経過や意義,内容の特徴を概観したうえで,とくに今般の日本語版仮訳の評価と今後の課題を中心に解説したい.
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