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はじめに
障害分野に携わってほぼ30年になる筆者であるが,障害者施策の実状についてずっと払拭できないでいる感覚が2つある.その一つは閉塞感である.障害のある人びとのニーズに照らして,また欧米の工業先進国と言われている国々の水準からみて,あるべき姿が明確になっていながらこれに辿り着けないのである.精神科病院における社会的入院問題や知的障害者を対象とした入所型施設における社会的入所問題などは,その典型と言えよう.看過できない人権問題とされながら,解消どころかすっかり固定化の様相にある.また,あれよあれよと言う間に6,000か所を超えた無認可の小規模作業所についても同様で,異常な増勢現象の主因が法定の社会資源の量的な不備にあることを誰もが承知しながら,今なおまともな政策方向が明示されないでいるのである.
今一つの感覚は,格差感である.障害の種別間や程度間は言うに及ばず,年代間や地域間などにおいても,理不尽とも思えるような格差が厳然と存在している.例えば,同じ身体障害群であっても,脳性麻痺や脊髄損傷による障害と高次脳機能障害とでは受けられる施策には相当な開きがある.また,学齢期と障害児学校の高等部卒業後とでは,1人当たりの支援に要する公費はそれこそ雲泥の差ということになる.
問題は,このような感覚を抱かせる現象をいかにして好転させていくかということである.国政レベルで対処しなければならない点も少なくはないが,一方で現実的な有効策の一つに地方自治体による対処が挙げられよう.分権政策や行政権限の委譲が急速に進行しているなかにあって,障害者施策への影響も少なくない.独自の構えと予算によって,かなりのレベルにまで引き上げられるはずである.とは言っても,何をどのようにということになるが,ごく入り口的で現実可能な対応となるのが行政計画の策定ということになろう.実際にも,内閣府は第一次障害者プランの策定(1996年度,当時は総理府)と合わせて,以来,市町村障害者計画の策定を奨励してきた.内容はともかくとして,ここにきてようやく広範囲な自治体で一般化しつつある.
そこで本稿では,市町村障害者計画に焦点を当て,現状の評価,地域リハビリテーションの推進という視点を合わせながら,昨今の市町村施策の実態と自治体行政計画をめぐる今後の課題について論及してみたい.
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