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はじめに
骨折の治癒過程において,修復期は安静固定から運動へのターニングポイントとなり,骨折部にかかる機械的刺激が重要であることは周知のことである.また近年,骨折部は強固な固定よりも機械的刺激が加わったほうが,仮骨形成を促進させることが知られている1).特に高齢者の骨折治療においては,早期に関節固定から解放し,四肢や体幹の運動を開始するなど,その方法や順序,期間などに変化がみられている2).
また今日,人工骨が臨床に用いられる一方で,レーザーや超音波などの物理的刺激を与え仮骨形成促進の治療が行われている3).このように骨折治療でいろいろな物理的刺激や機械的刺激などが導入されるなかで,最近,細胞生物学的手法による再生医療が始まろうとしている4,5).一般に生体組織は損傷を受けてもほとんど自己修復するが,できる限りもとの形態に修復させるためには,細胞を支持する媒体に親和し,三次元増殖させることが求められる.組織再生には細胞の足場として親和性がある人工媒体が必要である一方,三次元増殖を促進させるような細胞能力の解析も重要である.
骨は骨細胞が自ら産生した丈夫な細胞外マトリックスのなかに埋まった状態で存在している.骨のマトリックスは,引張力に強いⅠ型コラーゲン線維の間に圧縮に強い固体粒子であるハイドロキシアパタイト結晶としてのリン酸カルシウムが沈着することでできている6).ハイドロキシアパタイト(hydroxyapataite;HA)を臨床応用する場合,骨形成の誘導(骨伝導性)に加えて,滑膜,腱,筋膜などの軟部組織との組織親和性を考慮する必要がある.岩田はHAの線維芽細胞に対する親和性を調べた結果から,HAの組成や表面形状をうまく調整すると,HAによく密着して増殖することを観察した7).
仮骨形成促進に有効とされる物理的刺激には,電磁場や電気刺激あるいは超音波やレーザー刺激がある.われわれはこれまでに電磁場と超音波8,9),およびレーザー8,10)等の物理的刺激が,マウス線維芽細胞とHAによる三次元様増殖形成に与える効果を検討してきた.線維芽細胞とHAとを混合培養し,適量の物理的刺激を与えると,HAの周りを囲んで肥厚した細胞群が三次元様増殖を行うことを見いだした.つまり,培養細胞とHAを用いて物理的刺激の効果を迅速に調べる方法を開発した.この実験から物理的刺激の効果には閾値があり,最適刺激では細胞活性を促進し,適用量を超えると阻害作用を及ぼすことを示してきた.
骨折の理学療法において関節運動や荷重を加える際,骨癒合の段階をよく熟知し,骨折部に与える適切な負荷量について考慮しなければならない.しかし,この臨床的判断は経験に頼るところが大きく,また,骨癒合を促進する圧縮刺激や微小運動刺激について基礎的な研究はみられない.そこで本研究では,先の培養実験から三次元様増殖形成能を一つのパラメーターとして圧縮刺激と微小運動刺激の効果を評価し,刺激量の違いについて検討する.併せて,三次元様増殖の形成過程からこれらの刺激に対する細胞応答に及ぼす影響について考察する.
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