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はじめに
最近,高齢者の転倒事故の危険性についての情報が増えており,一般の人たちにもかなり広く知られてきているのではないだろうか.それにもかかわらず,転倒事故は意外と簡単に考えられている部分がある.その結果として,それまで元気に暮らしていた高齢者を寝たきりにさせてしまいかねないほどの問題となっている.
したがって,そのような転倒事故を減らすことは,自立して生活できる高齢者を増やすことにも繋がり,バリアフリーな街づくりを推進するための重要なポイントではないかと考える.
そして,それらの事故は一般的には,特定の場所や特定の原因によって起きていると考えられがちだが,実はそうでもない.家の内・外あらゆる場所で,時間も問わずさまざまの原因によって起きている.
もし,道路などに,バナナの皮が落ちているのが目に入りさえすれば,踏んで滑って転ばないように普通なら避けて通れる.それは経験や伝承によりバナナの皮を踏めば滑って転ぶ危険があることを誰でも(もっとも最近では事情は少し変わってきているかもしれないが)知っている有名な事例だからである.ところが,バナナの皮に匹敵するかあるいはそれ以上に,滑ったり,つまづいたりさせる危険な床材や条件が家の内・外には数多く存在する.しかし,意外なことに周りが考えるほどにはその危険性への認知度は低い状況にある(図1).また,残念ながら多くの場合,その危険への認知は,転倒などにより自らの体験によって学習するしかないという傾向もあり,その経験や知識や情報がないために,道路や家のなかで予想以上に多くの転倒事故が起きて,怪我をしたり骨折したり,場合によっては死亡事故に繋がったりしている.このいつでも自分自身が転倒事故の当事者になる可能性があるかも知れないという事実と,危険に対する認識の相違の幅が転倒要因を誘引している傾向にあるのかもしれない.
しかし一方で,このことに関してやむを得ない部分があると思うのは,いつもは慣れもあり,事故もなく無事に無意識に生活しており,目につくような危険個所も特に見当たらない日常的な住宅内や道路などの生活圏のなかで,自分自身が転倒事故を起こしてしまうと考えることのほうがむしろ難しいことなのかもしれない.
平成5年には,住宅内での高齢者の事故死者数が同じく交通事故の死者数を逆転して上回り,住宅のなかが決して安全でないことが数のうえで証明された.その事故死の原因項目をみると,建築的要因と考えられるものが多数ある(表).そのように建築的要因がそれらの事故原因の多くを占めているという事実は,建築の世界に関わるものとしては見過ごして通るわけにもいかない現実となってきている.
そこで,転倒事故の現状をみるとともに,その原因と対応策を探ってみたい.
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