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ハイブリッドFESの背景と意義
これまで,脊髄損傷に対するリハビリテーションは二足歩行を目指すのではなく,もっぱら車椅子移動を前提としてきた.それは,古くからリハビリテーションの世界に蔓延る“起立・歩行という夢を追い続けることは,障害の受容を遅らせ,患者の将来に害になる”という妄信の他に,装具による起立・歩行再建は,装具の重さ,着脱の困難さ,エネルギー消費量が多く疲れやすいこと,歩行速度が遅く実用的でないこと,上肢への負担の大きさ,車椅子との併用困難などから,せいぜい訓練室内での使用に止まることが要因となっている1).そのため,機能訓練の一部として多くの歩行装具が作製され,お蔵入りになっている現状は,医療資源の無駄遣いと言わざるを得ない.
前述の欠点の他に装具による対麻痺の起立・歩行再建では,膝をロックする必要があることから,座位から起立動作を行うことがきわめて難しく,危険性も伴う.そのため,介助者なしで起立・着席を常時行うことは困難である.そこで,脊髄損傷のような上位運動ニューロン障害では,電気刺激により麻痺筋を駆動させることが可能であることから,機能的電気刺激(functional electrical stimulation;FES)が行われている.対麻痺に対するFESでは,膝を固定しなくてもよいため,起立・着席は容易で,健常人の自然な動作に近く,介助者も省略できる利点がある.さらに,起立維持についても電気刺激により安定した姿勢を一定時間とることができる.このように,起立・着席動作については,装具に比べてFESがはるかに優れており,実用的である.車椅子との併用を考える場合,自由に立ち上がって,また座ることができるということは,対麻痺患者にとって活動範囲が広がり,大きな意味を持つ.
装具歩行の最大の欠点は,下肢振り出しの駆動力がないことが挙げられる.そのため歩行速度が遅いうえに,上肢,体幹・骨盤の捻りに頼るところが大きいため非常に疲れる.これに対してFESでは,腸腰筋刺激や大腿四頭筋刺激により下肢振り出し力が得られるため,歩容もより生理的である.しかし,FESにも欠点があり,電気刺激による反射習慣の消失,筋疲労が問題になる.そのため,両者の長所を組み合わせた装具を併用するハイブリッドFESが実際的である2).
ハイブリッドFESの長所として,1 筋疲労の抑制,2 膝折れ(buckling)の予防,3 制御筋数の減少,4 一方の関節の固定により他方の関節の筋収縮力を増強させ安定させる,5 センサー装着が容易で,closed-loop controlの導入に有利3),などが挙げられる.
対麻痺に対する新たな治療法としてのFESによる対麻痺の歩行再建には,多チャンネル制御が必須であり,難解であること,転倒などの重大な合併症の可能性がつきまとうこと,筋容量が大きく,個々の筋で十分な筋力を得ることが必ずしも容易でないことなど,種々の問題がある1).しかし,脊髄損傷に対する究極の解決策である脊髄再生が,ヒトではまだまだ問題が多く,実用化の目途は予想できない現状では,脊髄損傷患者の多くが持っている人と同じ目線になりたい,立って歩きたいという強い願望を実現する手段としてのハイブリッドFESの意義は大きい.
そこで,本稿では,脊髄損傷対麻痺に対するハイブリッドFESの現況について概説する.
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