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はじめに
随意運動,特に上肢の随意運動は,人間の行動においてその多くが手の運動によって行われることから見ても重要である.随意運動は,目標指向的な意図的な運動であり,そのためにいくつかの運動要素を時空間的に協調的に組み合わせて行われる.さらには,外部の対象物に働きかけ操作したり運動させたりし,学習によって運動制御の対象を拡張することもできる.
そもそも一生を通じてその身体の運動効果器の発達を考えると,脳は常に何らかの調整と学習を行うことで自身の運動制御を行っているはずである.したがって,脳のほとんどの部位が運動制御の何らかの側面に関わると言えるが,特に大脳皮質前頭葉,基底核,小脳は随意運動の制御にとって重要であることが知られている.大脳皮質と基底核,大脳皮質と小脳は密接な機能連関があり,その投射関係は最近の解剖学的な研究で解明されつつある.
大脳皮質の中心溝の前方に位置する中心前回の一次運動野と,それより前方の皮質外側面を占める運動前野Premotor cortex,そして内側面を占める補足運動野Supplementary motor area(SMA)が運動領野として存在する(図1).これらは,解剖学者Brodmannの領野名に従えば,一次運動野は4野,それより前方の運動前野はBrodmannの6野外側,そして補足運動野は6野内側を占める.運動前野はさらに,背側と腹側に分けられる.補足運動野は,さらにその前方にもう一つの領野,すなわち前補足運動野の存在が明らかにされている.前頭葉内側面に関しては,補足運動野のさらに腹側で,帯状溝内に帯状皮質運動野が定義され,さらに吻側と尾側に分けられ,それぞれBrodmannの24野と23野に相当する.したがって現在の大脳皮質の運動関連領野の概念では,少なくとも7つ(またはそれ以上)から構成され,手の運動制御に関与する.各運動領野は皮質間の投射も異なり,傷害時に見られる運動障害からも機能的にも異なることが明らかになりつつある.
ここでは3つの最近の知見を紹介する.すなわち,運動前野による運動物体の視覚情報に基づいた腕の運動制御に関して,また補足運動野による順序動作制御に関して,そして最後に帯状皮質運動野による報酬情報に基づいた目標指向的な動作の切換機構に関してである.
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