巻頭言
『リハビリマインド』を育てる時代
道免 和久
1
1兵庫医科大学リハビリテーション医学教室
pp.297
発行日 2004年4月10日
Published Date 2004/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100554
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年間自殺者数が5年連続で3万人を超えた.単一の価値観を頼りに高度成長を支えた企業戦士は,成果主義の論理によって切り捨てられ,価値転換の間もなく死に追いやられる.「いのちの電話」というボランティア組織は,24時間体制で自殺防止のための相談を実践しているそうだが,電話で辛い気持ちを聞いてもらうだけで,自殺を思いとどまる人も多いという.まずは,傾聴してもらうこと.それによって立ち止まることができる.価値転換に至るのは,ずっとあとになってからであろう.
翻ってリハビリテーションの世界をみると,障害をもつ患者の心を安易に考えすぎていないか,と心配になる.「障害受容」という言葉が決裁の印鑑のように使われていないか,期待通りの治療はできていないという謙虚さを忘れ,パターナリズムに陥ってはいないか,などと自問する.リハビリテーション医は患者の「諦め促し業」ではなかろう.キューブラー・ロスの段階説で最も重要な要素は,最期まで根底に流れ続ける「希望」であることを忘れてはならない.しかし,なぜか受容の個々の「段階」だけが一人歩きする.断定的なキャッチフレーズで広められるスローガンリハビリテーションは,大変危険だと思う.もっと患者の話に傾聴し,立ち止まり,一緒に考えるべきではないか.自分自身を受け入れられない患者を,私たちがまずありのままに受け入れることが先決ではないか.「また歩けますよ」の一言によってその後のリハビリテーションで希望を持ち続けられることの重みを自覚すべきではないか,と思う.
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