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少し古い本で恐縮だが,先天性四肢障害児父母の会による「これがぼくらの五体満足」(三省堂)という本をご覧になったことがあるだろうか.私はこの本のカバーにある,水中を泳いでいる女の子の写真が大好きで,よく手にとって眺めている.1999年の発行なので,前年に発行された乙武洋匡氏の「五体不満足」(講談社)とタイトルが関係している可能性が高く,タイトルを決めた方々の思いが伝わってくる.内容は,四肢の障害をもって生まれてきた本人や親御さんの文章を集めたもので,成人を含めて多くの方々の思いを知ることができる貴重な本である.私は,四肢の障害をもった子どもの親となり,障害を受容できずに不安を抱えている親御さんには,この本を読むことを薦めている.
私は約20年にわたり障害をもった子ども達と関わってきた.以前は考えられなかったことだが,10年ほど前から出生前診断に関する相談を受ける機会が増えてきた.私の場合は,胎児超音波検査で四肢の変形や短縮を指摘され,軟骨無形成症や骨形成不全症などの骨系統疾患を疑う場合の相談が多い.しかし,通常の超音波検査のみならず,1990年代には母体血清マーカー検査が広まり,ダウン症など染色体に変化をもつ疾患や神経管閉鎖不全(開放性二分脊椎や無脳症)の「確率」を簡便に調べることができるようになり,また近年は,高性能の超音波断層装置を用いて,体表や内臓の微細な変化も捉えることができるようになってきた.原因となる染色体の変化や遺伝子変異が判明している疾患では,羊水検査などから胎児の罹患の有無を確定することもできる.冒頭に述べたような先天性の四肢障害も,超音波画像の詳細な観察により,例えば手指の多指症などでも診断できる場合があるし,こういった疾患の発生に関わる遺伝子の解明も急速に進歩しているので,今後はより早期に診断が可能となるかもしれない.すなわち出生前診断の技術は急速に向上しているのである.
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