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はじめに
過去にポリオ罹患歴のある者(以下,ポリオ罹患者)には,麻痺が残存し,さまざまな身体上,生活上の困難を抱える者がいる.近年では,ポリオの罹患後,数10年後に新たな健康上の問題が発生することが報告されている1,2).これは,急性期後,一定期間の病状安定期・回復期を経た後の既存症状の増悪または新規症状の出現を特徴とする.これらはポリオの二次障害と呼ばれ,post-polio syndrome,post polio muscular dysfunctionなど,さまざまな定義が提唱されている3-7).欧米では,罹患後数10年後の身体状態や生活状況を調べる大規模な疫学研究が行われており8-15),二次障害の有病率も明らかにされている12-15).
日本では,ポリオは1949年より年間3,000人を超える発生がみられたが,その後のワクチンの普及により,1972年以降は,輸入例を除いては野生株によると思われるポリオの発生は報告されていない16).流行期にポリオに罹患した者は大半が罹患後40年以上経過しているため,現在,二次障害を含めた実態把握と支援が必要となっている.ポリオに起因する身体障害者数は,1991年度の43,000人から10年間で12,000人増加しており17,18),この増加分は二次障害によるものと推定される.しかし,日本では,ポリオ罹患者の登録制度がないため,特定の地域で行われた実態調査19,20)や障害者施設来所者の実態調査21)はあるものの,全国的な調査は困難で,これまでも報告されていない.
本研究は,多数施設の協力の下,広く地域生活者を含めた日本全国のポリオ罹患者に対する調査であり,二次障害を含めたポリオ罹患者の実態を把握するために行った.本研究で扱った二次障害は,主にポリオ罹患者本人が主観的に捉えている障害の悪化であり,医師が明確な診断基準に基づいて診断したpost-polio syndromeなどとは区別する必要がある.そこで,本論文ではポリオ障害の二次的悪化(secondary worsening)という用語を用いて論を進めていく.
本論文の目的は,日本におけるポリオ罹患者の二次的悪化の実態を把握すること,二次的悪化の関連要因を明らかにすること,の2点である.
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