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はじめに
活動障害(activity disorder)を扱うリハビリテーション医学(rehabilitation medicine)では,病態の解決(病理学的問題の解決)のみならず,たとえ障害が残存しても,「システムとしてその機能的問題の解決を目指す」というきわめて柔軟な対応姿勢が求められる.つまり,障害を抱えた人を,「障害部位の他に健常な部位を有し,また,人的・物的環境のなかに存在しているシステム」として捉え,病理的状態や機能的問題が残存しても,機能障害部の活動性を向上させ,個人の健常部分を活用し,活動のもつ冗長性を利用しながら新しい活動様式を獲得し,さらに道具を使用し,環境を整えて,個人としてあるいは環境を含めた個人の生活として最良の状態の実現を目指す1).そのために他の医療に比して際立って特徴的な3つの方法論がある.すなわち,① 活動-機能-構造連関(activity-function-structure relationship),② 治療的学習(therapeutic learning),③ 支援工学(assistive technology)である.支援工学とは,環境や道具を用意することで活動障害を克服する方法論である(社会的手段も含む).
運動療法(excercise therapy)は,上記の方法論のうち,活動-機能-構造連関と治療的学習を中心とした対応法であり,理学療法(physical therapy)やリハビリテーション医学の中核をなす.
「活動-機能-構造連関」,すなわち,機能と構造は活動性に依存して変化するという法則は,早期離床による廃用予防,さらには,過負荷の法則(overload principle)やuse-dependent plasticityと呼ばれる概念を含む.具体的には,日常の範囲(あるいは安静の範囲)を超えた活動(訓練,練習)を行うことにより,筋力増強,持久力向上,そして関節可動域改善など,活動に必要な諸要素を改善するものであり,その効果は,生理学的によく理解されてきている.一方,「治療的学習」,すなわち,人のもつ大きな学習能力を利用し,新行動形成を含むスキル(skill)の獲得を通して個人の活動能力を向上させる運動学習や認知学習については,その理解が曖昧な場合が多い.
参考までに,上記の3方法論を用いたシステムとしての解決を,「片麻痺患者の移動への対応」を例に簡単に説明する.片麻痺患者の移動活動の改善のためには,① 麻痺した下肢の使用を促進し(活動-機能-構造連関;use-dependent plasticity),② 麻痺肢の回復程度を予測して,適切な下肢装具(支援工学)をつけて,早期から歩行での患肢使用を可能にする(活動-機能-構造連関;廃用予防)とともに,健側下肢をこれまで以上に活用させ(活動-機能-構造連関;過負荷の法則),健側上肢で杖を使うという新しい歩行様式を作って(治療的学習;新行動形成),③ この様式で訓練を重ねることにより(治療的学習;運動学習),歩行を自立させる.④ また在宅化に当たっては,必要に応じて,玄関に椅子を置く,手すりを付ける,段差を解消するなどの環境整備,さらには歩行を介助してくれるヘルパーの導入を行う(支援工学).
本稿では,運動学習に限って治療的学習の基本的考え方を解説する.
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