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はじめに
われわれは,嚥下障害患者を対象として核医学の手法を利用した評価を試みた.放射性医薬品を含んだ水溶液を嚥下後,胸部のシンチグラム(以下,シンチグラフィー)を撮像すれば,誤嚥を検出すること,および気管支の排出機構(防御機能)の評価をすることができると考えた.この報告の目的は,新たな評価法を紹介をすることと,その有用性を嚥下リハビリテーションの臨床的経過から検討することである.
シンチグラフィーの嚥下機能評価への応用についていくつかの報告がある.Silverら1),Kikuchiら2),川本ら3)の手法は,いずれも被験者の睡眠時の誤嚥(不顕性誤嚥)を検出しようとするもので,嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing;VF)などの手法ではみつからない嚥下障害の検出に利用することを目指している.Hamletら4)の手法は,嚥下動態定量的評価の可能性を示したものである.われわれの開発した手法は,VFで明らかな嚥下障害を認める患者を対象とし,VFなどと同様の方法で経口摂取をしてもらうようにしている.また,誤嚥した場合には時間経過を追うことで排出機能の評価が可能となる.
われわれの方法によるシンチグラフィー評価の誤嚥とは,VF,嚥下内視鏡検査(fibroptic endoscopic evaluation of swallowing;FEES)の誤嚥とは意味合いが異なる.シンチグラフィーでは,気管支(肺野)に流入した水溶液の検出に関しては鋭敏で,試算では0.03ml程度の誤嚥でも検出可と考えられるが,食道との重なり合いがあるため気管レベルまでの誤嚥に関しては側面像でも確認することは困難である.
今回のシンチグラフィーによる気管支の排出機構の評価では,放射性医薬品を含んだ水溶液を嚥下した時に誤嚥があれば,経時的な撮像をするという方法をとった.他の肺の防御機構の評価法としては,同じく核医学的手法を利用し,19Fと99mTmでラベルしたfluorinated ethylene propyleneの直径6μmにそろえられたエアロゾルを吸入し,その排出速度から評価する報告がある5).この方法は煩雑であり,この検査と相関があるとされるサッカリンテスト(鼻粘膜の繊毛運動を,サッカリン1gを下鼻甲介においてから甘さを感じるまでの時間で評価)で代用されることも多い6,7).粘膜刺激性の化学物質水溶液のネブライザーによる咳誘発閾値も防御機構の評価に有用であると報告されている8).われわれも嚥下障害患者においてクエン酸の反射的咳誘発閾値を評価した経験があるが9),評価結果は嚥下リハビリテーションの方針決定に有用でなかった.また,嚥下障害患者の肺炎発生に対する有意な因子ではなかった10).
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