巻頭言
欠損を埋めようとする患者の心とリハビリテーション
渡邉 修
1
1東京都立保健科学大学大学院保健科学研究科
pp.107
発行日 2005年2月10日
Published Date 2005/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100037
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私たちは,日ごろ,片眼で景色をみても,盲点による欠損は景色のなかに現れないように感じています.人の話を文節的に聞き逃しても,「おそらく……だろう」と類推して話のつじつまを合わせようとします.変化を鋭敏に感じとることが生きていくうえで必要な反面,自己およびその環境を前後の文脈からとらえ,恒常性を保ちたい,パニックは避けたいという機構がわれわれのなかに存在しているように思えます.同じようなことが,障害をもつ患者にもみられます.
タキストスコープという機械を使って実験をしていたときのことです.その患者は,脳梁がほぼ全域にわたって梗塞を起こし,左右の大脳の主要な連絡線維が断たれている状態の方でした.その患者の眼底を通して,右の後頭葉に「牛」という字をゆっくりと投影しました.そして「何という字かわかりますか,その字が意味する絵札を左手で選んで指してください.」と質問をしてみました.この患者は,脳梁が全域にわたって離断されているために,右後頭葉の情報が左大脳の言語野に到達することは不可能なはずです.それなのに,患者は,左手を動かすことなく,「早すぎて何が書いてあるのかわかりません」と真剣に答えたのです.十分ゆっくりと投影しているにもかかわらずです.
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