巻頭言
分離脳から学ぶ「欠損を埋めようとする」ヒトの心理
渡邉 修
1
1東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科
pp.196
発行日 2020年3月18日
Published Date 2020/3/18
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- 文献概要
われわれは,片眼で景色を見ても,盲点による視野の欠損は景色の中に現れないように感じる.人の話を一時的に聞き逃しても,「おそらく……だろう」と即座に類推して会話は続く.すなわち,われわれは,日々,些細な見えない欠損や聞こえない欠損を埋めて過ごしている.このような現象は,もっと深刻に分離脳の患者からみてとることができる.
分離脳とは,左右の大脳半球をつなぐ脳梁が手術や脳卒中,脳外傷などの疾患によって損傷し,左右の大脳が分断された病態を指す.完全に分断されると,左右の脳は個別の知能と意思をもつことになる.このような患者にタキストスコープを使い,網膜を経由して右後頭葉に「牛」という文字を入力してみた.すると,患者は右大脳への文字入力なので読むことはできないのだが,患者は「読めない」とは言わず,「速すぎて何が書いてあるのかわかりません」と応え,読めないという欠損を埋めようと左脳が弁解した.また,1人の顔の右側に男児,左側に女児の顔の描かれたキメラ図形を見せると,左視野にある女児の顔は右後頭葉に入るが,言語化される左脳に入る右視野の男児しか,「見た」という意識には上らない.「男児しか見えません」と言い切った.しかし,左手は女児を指差した! すなわち右脳は女児を認識していたからである.この現象は,左脳に到達した情報は言語化される意識となるが,右脳には言語化されない意識が存在することを示している.
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