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メカニカルストレスと理学療法の接点
1.適度なメカニカルストレス=理学療法?
運動は心身両面に好ましい効果をもたらし,健康のために推奨される.一方で,運動はすべてがよいというわけではなく,運動量は「適度」であることが重要であり,不足すれば効果に乏しく,過剰であれば害になる.では,適度とはどの程度であろうか.身体状態や疾病の有無などにより個々人で異なるため,具体的な数値をもって示すことは難しい.そこで,単純化して考えてみる.身体は常に合成と分解を繰り返し,その均衡が保たれることで恒常性を維持している.そして適度とは,合成が分解を上回る範囲といえる(図1).運動量が不足あるいは過剰になると,合成と分解の均衡が崩れ,廃用あるいは過用に至る.また,廃用症候群と過用症候群は別の病態として扱われているが,ともに分解が合成を上回る共通の病態という捉え方もできる.
メカニカルストレス(mechanical stress)は,機械的刺激,力学的刺激,物理的刺激と訳される.運動により身体にはメカニカルストレスが加わる.物理療法は身体にメカニカルストレスを加えることで生理的反応を起こす(熱や電磁波などのエネルギーも広義のメカニカルストレスに含まれる).このように理学療法は,メカニカルストレスを治療手段として用いている.実際,欧米では理学療法,特に運動器に対する理学療法をメカノセラピー(mechanotherapy)と称すグループもある.廃用症候群には運動療法や物理療法でメカニカルストレスを負荷し,過用症候群には杖や装具などでメカニカルストレスを軽減することで,合成と分解が均衡,あるいは合成が上回るまで回復させる.また,このとき用いるメカニカルストレスには,負荷でも軽減でも合成が分解を上回ることを促す適度なものが求められる.つまり理学療法は,適度なメカニカルストレスそのものと考えることができる.
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