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はじめに
日常の運動に伴い,われわれの関節は常に多様なメカニカルストレスにさらされており,関節を構成する細胞はさまざまな応答をしている.その細胞の機能と役割に対応した特性を維持するために,メカニカルストレスが必要であることには議論の余地はないが,加齢や肥満,外傷といった過度のメカニカルストレスによって関節機能が損なわれることも事実である.
変形性関節症(osteoarthritis:OA)は軟骨基質の破壊と疼痛による機能制限をもたらす退行性疾患で,高齢者の増加と長寿化に伴い患者数が増加している.関節軟骨の自己治癒能力は乏しく,痛みや変形に対する効果的な治療・予防方法はいまだ確立されていない.OAは関節軟骨の障害だけでなく骨,靱帯,滑膜,関節包といった他の関節組織を含む関節全体の機能障害である1).
以前は関節リウマチなどの炎症性関節炎と区別され非炎症性と説明されていたが,発症初期のOAにおいては,炎症性メディエーターが大量発現することが報告されており2),現在は炎症はOAの症状と進行に寄与することが認識されている3).滑膜の炎症が疼痛や関節水腫の発生に関与し,その病態にカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide:CGRP)やサブスタンスP(substance P:SP)などの神経ペプチドによる神経原性炎症が関与していると考えられている2).しかしながら,OAの発生と進行の病理学的メカニズムにはいまだ不明な点が多い.滑膜や軟骨・骨といった関節構成細胞がメカニカルストレスによってどのような応答をするのか.各細胞の炎症などによる病態生理学的シグナル伝達経路と関連する分子を明らかにしていくことが,関節損傷の予防と治療方法の開発にとって重要である4,5).本稿では関節構成細胞の機械的刺激(メカニカルストレス)に対する細胞応答と組織間の相互作用の一端を紹介する.
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