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はじめに
少子高齢化の進行によりわが国の傷病構造が大きく変化している.具体的には医療と介護ニーズが混在する高齢患者が増加している.こうした高齢者は種々の慢性疾患に加え認知症やADL障害をもっているため,医療介護のケアに加えて日常生活や住まいなどの福祉的な支援も必要となる.すなわち,超高齢社会である日本では地域包括ケア的な支援体制の充実が求められるのである.
また,障害の有無にかかわらず地域で最後まで尊厳をもって生活することを可能にするために,生活のすべての場面で地域リハビリテーション的な視点が必要になる.高齢化の状況は地域によって異なることを踏まえれば,こうした体制の整備は地域ごとに行われなければならない.団塊の世代が後期高齢者になる2025年を1つの目途として,そのための対策を地域ごとに考えるというのが,地域医療構想の目的である.
地域医療構想の議論にあたっては国から提供されている各種データが用いられることになっている.データの内容としては診断群分類(diagnosis procedure combination:DPC)公開データに基づく各地域の急性期病院の診療実績(病院名も公開されている),national database(NDB)を用いた当該地域の医療提供体制の状況[例えば,標準化レセプト比(standardized claim ratio:SCR註)],消防庁データに基づく救急搬送の状況,機能別病床数の将来推計など,ボリュームのあるものになっている.
近年,こうしたデータ提供が急速に進んでいる理由は,政府レベルでのデータ活用促進に向けた強い方針がある.その契機となったのが社会保障制度改革国民会議における永井良三委員の次の発言である.「(日本は)市場原理でも社会主義的でもない,そのために独自の制御機構が必要であるということがまず共通認識として持たれるべきだと思います.(中略)私の提案は,独自の制御機構として日本の医療の現状,必要性,ニーズ,そうしたものをリアルタイムにデータとして集積する必要があるということであります(以下略)」1).
公私ミックスの提供体制を基本とするわが国の場合,国や地方自治体が医療提供体制のあり方を強制的に変えることはできない.国が診療報酬制度や種々の計画策定の指針を通して発信する意図を的確にくみ取り,冷静に経営判断に活用する姿勢が医療関係者に求められている.ただし,そうした国の意図が常に正しいものとは限らない.現場の状況にそぐわない方針に対しては,データに基づいてそれを正す姿勢をもつことも必要である.このような民主的な手続きに基づいて医療政策が展開されるためには,規制する側とされる側双方が,同じデータに基づいて検討が行える情報基盤の整備が必要となる.
まだ十分であるとは言えないが,今回の地域医療構想策定にあたって,こうした情報環境の整備は大きく進んだ.特に,話し合いの場として地域医療構想調整会議が設置されたことは重要である.さらに,公的病院については「公的医療機関等2025プラン」の作成を通して,地域の現状と将来の動向を踏まえたうえで,今後10年のサービス提供のあり方を検討するという仕組みも導入された.こうした一連の施策の方向性が医療関係者には正しく理解されなければならない.
以下,上記のような問題意識に基づいて,医療におけるビッグデータの活用について私見を述べる.
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