- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
AI研究の盛衰
人工知能,あるいはAI(artificial intelligence)という言葉を日常的に耳にするようになってしばらく経つ.始めのころこそバズワードとしてもてはやされ,猫も杓子もという勢いでAI利用を謳う機器やサービスが登場し,AIにあらざれば先進にあらずという様相を呈した時期もあった.なかには,本当にそれはAIなのか,と疑うような例もあったが,さすがに最近はいわゆるAIブームも落ち着いてきた印象で,AIも広く社会に根付きつつある状況である.AIを利用した顔認識などの生体認証は当たり前に社会のなかに存在し,Amazon EchoやGoogle Homeに代表される音声操作ができるスマートスピーカーもAIの技術なしには成立しない状況である.
ところで,人工知能の歴史は意外に古く,1956年に開催されたダートマス会議で初めてartificial intelligenceという用語が提唱され,人工知能の学術研究分野が確立した.そこから数えると,現在の人工知能研究の隆盛は第3次AIブームにあたる.1960年代の第1次AIブームでは入力をあらかじめ規定した処理手続きを経て出力するアルゴリズムをベースとし,1980年代の第2次AIブームでは知識表現に依拠したエキスパートシステムのように,特定分野の専門家の知識をルール化したプログラムが盛んに研究された.いずれのAIも,計算機が扱うべき課題に関する特徴や概念を人間が抽出して処理手順や知識表現としてプログラムに組み込む必要があり,扱う課題の規模が大きくなればなるほどシステムの設計が複雑化する問題を抱えている.例えば,犬と猫を判別する機械を作るためには,まず犬と猫の違いを人間が抽出し,その抽出した概念を1つひとつ機械に教え込まなくてはならないことを意味していた.
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.