特集 高齢者の転倒と予防
転倒と運動機能・受け止めの変化
井上 優
1
Yu Inoue
1
1倉敷平成病院リハビリテーション部
キーワード:
転倒自己効力感
,
情緒的特徴
,
心理的受け止め
Keyword:
転倒自己効力感
,
情緒的特徴
,
心理的受け止め
pp.21-28
発行日 2019年1月15日
Published Date 2019/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551201419
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はじめに
転倒は要介護状態に至る主要な原因として,これまで私たち理学療法士を含む多くの専門職の間で議論され,その予防に向けた実践的な取り組み,学術的な検証がなされてきた.その転倒が受傷機転の7割を超えるとされる大腿骨近位部骨折1)に目を向けると,日本国内4,000施設以上の医療機関を対象に実施された大規模調査では,過去20年の間で70歳台までの大腿骨近位部骨折発生率は横ばい状態が続いている.その一方で,80歳台以上では年々増加傾向にあることが報告されている1,2).
さらに全年齢を対象とした5年ごとの推計では,大腿骨近位部骨折の発生件数は約30,000件ずつ増加していることも示されている2).これは年を重ねたことにより生じる運動機能の低下が主な原因と考えてしまいがちであるが,年を重ねることによって生じ得る情緒面の変化,周囲の環境変化にも,運動機能の低下を助長する要因が含まれていることを見逃してはならない.今後さらに高齢化率が上昇することが見込まれているが,このことは大腿骨近位部骨折に代表される転倒に関連した外傷発生件数が増す下地になることに加えて,高齢者にとって転倒がより身近で深刻な話題となること,そのことが情緒面の変化を引き起こしかねないことを忘れてはいけない.
本稿では転倒の原因同定に関する議論は差し控えるものの,高齢者の転倒事象の理解を深め,予防するうえで知っておくべき情緒面における特徴,心理的な受け止めに関して整理をし,理学療法士としてどのような対応,態度で接していくべきかを考えたい.
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