連載 赤いコートの女―女性ホームレス物語・22
失敗を受け止めて
宮下 忠子
1,2,3
1元東京都城北福祉センター
2元東京都精神保健センターアルコール問題家族教育プログラム
3現コミュニティワーカー制度を考える会
pp.486-488
発行日 2006年6月1日
Published Date 2006/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100592
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寒くなったので,長野の義父を保健施設に預けた.大きな農家の屋内が静まり返る.畑に出て,ぶどうの収穫後の草取りと,収穫のお礼の肥料を施して,来年の実りを祈る.ナメコを収穫してナメコ汁を作る.キウイはくねった枝に白い華麗な花を咲かせ7個実った.長ネギが見事に成長した.一部収穫である.優しく根元を揺すり静かに力を入れてゆっくりと引く.慌てて抜くと途中でポキリと折れる.
作業の手を休めて辺りを眺めると,山間の村は,見渡す限り紅葉で華やかに彩られていた.静寂の中の紅葉と名も知らぬ小鳥のさえずりが心を癒す.もう,40年近い年月が流れた.再び長ネギをゆっくりと抜きながら,人との関わりもこのように慌てることなく,ゆっくりと優しく付き合えればいいのだと思う.自然はそのことを教えてくれるし,人間も自然の一部だということを教えてくれる.
収穫したぶどうを波さんにもお裾分けした.「おいしい」と言って褒めてくれた.
ところが,私の留守中にAケースワーカーから留守電が入っていた.何かを予感させた.
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