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はじめに
研究倫理は種々の分野の研究に際して研究者が遵守すべき倫理です.医学系研究においては,病気の診断や治療など,患者を対象として実施する臨床研究と,基礎医学などの患者を対象としない非臨床的研究があります.臨床研究の目標は,人の健康の改善(疾病の治療・予防などの改善)あるいは人に関する生物学の解明(疾病の発症機序・原因・病態などの解明)につながる種々の知識・知見を創出し一般化させて,医学を進歩させることです1).
しかし,近年の相次ぐ研究不正行為や不誠実な研究活動は科学と社会の信頼関係を揺るがし,臨床研究の倫理に関するさまざまな問題が相次いで生じています.これらによって国際的な信用問題が懸念されていることもあり,本邦での倫理教育の徹底が求められています2).研究不正はあらゆる学術分野で問題となる一方で,理学療法のように患者や健常者ボランティアなどの研究協力者を研究の対象とし,成果を出すにあたって人間の心身をある種の実験対象として用いる必要のある研究分野においては,より大きな倫理的問題が生じるため,単に研究不正を禁じるだけではなく,人を研究の対象とするがゆえの特別な配慮が要求されます.
臨床研究を積極的に実施し,その成果を学会発表や論文投稿などの形で公表して世界中の医療従事者と共有することは,確たる根拠を重視することでよりよい医療を実践しようというevidence based medicine(EBM),あるいは診療ガイドラインなどで示される標準的な医療をより確かな形で実践することにつながります.その一方で,臨床研究は,研究対象者の身体および精神または社会に対して大きな影響を与える場合もあり,さまざまな倫理的,法的または社会的問題を招く可能性があります.研究対象者の福利は,科学的および社会的な成果よりも優先されなければならず,また,人間の尊厳および人権が守られなければなりません.
臨床研究の倫理に関する知識は,臨床経験がいかに豊富であっても,おのずと身につくといった性質のものではなく,また,臨床研究を取り巻く国内外のさまざまな環境変化や時間経過とともに少しずつ変更されていくものです.
以上のことから,はじめて臨床研究を行う理学療法士の方々には本稿を通して臨床研究の倫理についての理解を深め,積極的に取り組んでいただきたいと思います.
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