- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
障がい者のスポーツは,リハビリテーションや健康増進,自己実現などさまざまな向き合い方や楽しみ方があり,その対象も目的も幅広い.障がいの種類や重さ,スポーツとしても多様なうえに個別性が高いため,パフォーマンス分析やリスク管理など理学療法士の専門性を活かすことができる領域である.例えば,トレーニングやスポーツ補装具の適合や工夫,障がいの予防やコンディショニング,障がいによるクラス分け,さらには障がいや道具を戦略的に考えたコーチングやマネジメントなど必要性や可能性は広域にわたるが,現状としてかかわっている理学療法士は少ない.かかわりたいと思っても,それが仕事とは別の活動であることや職場では出会うことのない障がいや特殊な補装具,経験がない競技ということで,かかわりにくさを感じているのではないだろうか.まず言えることは,最初から理学療法士として何かするのではなく,時間を共有するという“先行投資”が必要ということである.実際に現場で活動をすることで競技や障がいへの理解を深め,そこではじめて理学療法士として知識を生かした新たな試みや多角的なサポートにつなげられる.これから12回にわたって「障がい者スポーツ」を連載するにあたり,障がい者スポーツ領域で活躍している理学療法士に競技の紹介とかかわるきっかけ,そして現在の役割について紹介していただきたいと思う.
さて,今回紹介するのは,障がい者スポーツにおけるアンチ・ドーピングへの取り組みである.ドーピングとは,薬物を使用して競技力を高める行為である.アンチ・ドーピング規則違反とは,世界アンチ・ドーピング機構によって定められた禁止物質が検体(尿や血液)から検出されることであるが,その使用を企てたり,検査を拒否したりすることも違反となる.アンチ・ドーピング活動には大きく分けて検査と教育啓発活動がある.検査は違反者をみつけるためではなく,選手が不正をしていないことを証明するためであり,スポーツの価値を守るために実施されている.教育啓発活動は,アンチ・ドーピングの正しい知識を身につけ,不慮の結果として違反にならないためにもルールを学びスポーツと向き合う姿勢を啓発している.これらアンチ・ドーピングに関するルールは全世界・全スポーツ統一であり,健常者と障がい者とを分け隔てることなく同じルールで行われている.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.