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はじめに
内閣府の資料によると,いわゆる団塊の世代とよばれる,第一次ベビーブームの期間といわれる1947〜1949年に生まれた世代が75歳以上になるとされるのが2025年であり,65歳以上の高齢者人口は,約3,500万人(人口比約30%)に達すると推計されている.一億総活躍社会といわれるように,高齢者の健康寿命が延びて医療・介護を必要としないのが理想ではあるが,実際には65歳以上の高齢者のうち,2025年には「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者が約470万人(12.8%)に増加していくことが試算されており,介護を必要とする高齢者は確実に増加することが予測される1).
介護の将来像として国が掲げているのが,「地域包括ケアシステム」である.住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの実現により,重度な要介護状態となっても,住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようになる.認知症は超高齢社会の大きな不安要因であり,今後認知症高齢者のさらなる増加が見込まれることから,認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも,地域包括ケアシステムの構築が重要である.人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部,75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部など,高齢化の進展状況には大きな地域差が生じている.地域包括ケアシステムは,保険者である市町村や都道府県が地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じてつくり上げていくことが必要といわれている.
地域包括ケア体制の整備には,「在宅医療の充実」と「在宅介護の充実」が必要であり,施設と地域,医療と介護の相互連携の深化が不可欠である.したがって,これからますます在宅サービスの需要が高まるが,地域格差も踏まえたその地域の社会資源を「知ること」がまず大切である.
筆者は埼玉県西部を中心に活動する在宅緩和ケア医である.緩和ケアとはがんのみならず生命を脅かす病気が原因となって起こる症状を緩和する医療である.疼痛や不眠,食思不振,呼吸困難など,さまざまな身体の症状をコントロールすることが基本であるが,精神面での苦痛や,社会生活などの問題も解決を図るのが緩和ケアに求められる「全人的ケア」である.患者さんのみならず,特に在宅ではご家族のQOLをも高めることが必要である.入院ではどうしても施設の「枠」で縛られてしまうため,真の緩和ケアはできず,究極の緩和ケアは,「在宅」でのみ実現可能だと実感している.基本的に外来診療の枠はもたず,24時間365日いつでも患者の変化に対応できるよう,訪問診療を専任している.前勤務先の鶴ヶ島在宅医療診療所では,19床の有床診療所であったため,在宅が困難となった場合はレスパイト入院という形で入院施設を利用した在宅療養支援も行っており,5年間で180例の在宅看取りを経験した.
在宅医療の現場は,訪問理学療法士や訪問看護師,介護支援専門員(ケアマネジャー)など,多職種との連携なしでは成り立たない.患者の生活や人生に想いを馳せるのはもちろんのこと,多職種が「顔の見える関係」かつ「同じ目線」でお互いを思いやって連携することが,結果として患者本位の医療・介護へとつながっていく.その多職種の視点を総合して患者の生活を支えることが,科学だけで説明できない地域在宅医療の臨床推論の特徴といえよう.
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