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はじめに
摂取された水分や食物(栄養)は消化管での消化・吸収を経て,代謝機能により生命活動に必要なエネルギーとなる.われわれが生命を維持するためには,少なくとも呼吸,循環,排泄にかかわる臓器を働かせる必要がある.循環にかかわる心臓,呼吸にかかわる肺および呼吸筋,体液調整にかかわる腎臓を維持し,働かせるためには“栄養”が必要であり,“栄養”を摂らなければ最終的に死に至る.そのため,栄養を摂取するスタート地点である摂食嚥下は,人間を含む動物にとって非常に重要な事象である.点滴が開発されるまで,動物にとっては食べられない=摂食嚥下障害=寿命であった.口に入れた栄養が,咽頭を通って,食道・胃・小腸へ送られなければ,せっかく摂取した栄養を吸収することはできないからである.
リハビリテーションでは,生命維持に最低限必要な栄養以上の栄養が必要となる.筋力増強トレーニングや歩行練習といった直接的に体(筋肉)に負荷を与える運動では,そのためのエネルギーが必要となることはイメージしやすい.しかし,座位保持トレーニングのような静的な負荷であっても,姿勢を維持するためには,体幹の筋肉が働いている必要があり,そのためのエネルギーが必要となっている.また,机上のテストや言語トレーニングであっても,脳細胞を働かせるためにもエネルギーが必要となっている.栄養状態が悪ければ,負荷をかけることにより,体内で異化作用が起こり,筋力増強を目的とした運動をしても,筋力の低下を招く.医療者にとってこの点は意外な盲点となっているため注意が必要である.
栄養状態を正しく評価し,把握することも,リハビリテーションを施行するうえで,重要な課程の一つである.
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