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理学療法MOOKは1998年に刊行され,シリーズを重ね17年目を迎えた.自宅の書棚にも初刊の『脳損傷の理学療法』が鎮座しており,診療や執筆に大いに活躍した.このたび刊行された本書のテーマは,わが国に理学療法士が誕生し半世紀を迎えるこのタイミングにふさわしいものである.この10年で,数多くの診療ガイドラインが整備され,私たちにはEBPTの実践が求められている.編集を手がけた福井勉先生,神津玲先生,大畑光司先生,甲田宗嗣先生は,時代をリードする専門家として名高く新たな技術やエビデンスの提唱者でもあり,本書の内容は大変興味深いものになっている.その特徴は,中枢神経疾患,運動器障害,内部障害,発達障害の領域に分類され,該当領域の理学療法の問題点を整理し,科学的検証と反証,そして今後の動向について言及する構成になっている.
本書を読み終えた感想は,理学療法全般の変遷を概観することができ,現時点の医療全体における理学療法の位置づけや役割が再確認できたことである.自分が専門とする領域以外の動向を手短に把握できて,自分の知らない知識でメタ認知が促され,診療の幅を広げてくれたように感じられた.著者のこだわりが読み手に伝わってくるものもあり,自分も頑張ろうと思い立たせてくれる.各領域の内容をまとめると,中枢神経疾患では,理学療法モデルの変遷に触れ,エビデンスより過去の診療への反省と再考を促している.そして新たな理学療法モデルに対応した評価指標と治療戦略について提案している.運動器障害では,定説を見直し,日常生活に即した評価の視点や介入について紹介している.罹患部位にとどまらず全身的な影響を考慮することや,病態や病期を詳細に捉えてエビデンスを再構築する必要性を説いている.内部障害では,理学療法手技の一部が科学的根拠に乏しいことを明示している.ガイドラインに採用されているものについては,対象者に合わせて適応を吟味する必要性を説いている.発達障害では,本邦の理学療法の主流であった神経発達学的アプローチの問題に触れている.新生児期からのライフサイクルに合わせた目標設定が重要で,これに合わせた理学療法が提唱されている.新たに開発された粗大運動能力の評価法の普及がエビデンス構築につながると期待されている.
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