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初期治療が行われている時期,あるいは集中的な治療や管理が必要とされる時期に,理学療法士がその現場(ICU)に出向き始めるようになったのは,少なくとも四半世紀以上も前のことだと思う.私もICUという名称を知り,ICUに足を踏み入れたのは約30年ほど前であったが,その当時,理学療法士の役割は,集中的な治療が実施されている臓器や患部にはまったく関係のない,またはまったく影響が及ばない箇所,例えば術部から離れた身体(四肢)の一部のストレッチ等を実施することであったように記憶している.つまり,当時,理学療法士がICUで把握すべき知識は,やってはいけない事項(いわゆる禁忌事項)であり,治療チームとしての役割を担うというにはほど遠いものであった.近年では,ICUにおいて,理学療法が積極的に処方されるようになり,ごく最近では,理学療法士がICUに常駐して患者の状態を把握し,理学療法士自らが理学療法開始のタイミングを医療チーム(医師,看護師等)伝えている施設も少なくないほど,理学療法士に求められる役割は大きく変わっている.まさに,ICUで実施する理学療法も初期治療の一翼を担っている.
さて,このように,ICUにおいて,理学療法士による確かな治療技術が求められているなか,三輪書店から理学療法MOOKシリーズ18「ICUの理学療法」が出版された.まずは本書の目次とその構成,および筆者の先生方を一見させていただいたが,私にはすぐさま,編集された神津玲先生(長崎大学大学院)の強い思いとこだわりが伝わってきた次第である.一般に,「○○の理学療法」というと,“how to”が主体であろうと思う.しかし,本書は私の想像を遙かに超える生きた知識(本書では,病態の理解のための知識,治療と管理の基本)が盛り込まれており,しかもページ数は全体の約3分の2にも及んでいる.さらに,これらの知識に関する箇所はすべて,第一線の現場(ICU)で指揮を取られている医師によって執筆されている.前述のように,理学療法士がICUで求められている知識と技術は,ICUで施される初期治療とは異なる内容ではなく,まさにその治療の一部あるいはその治療そのものである.それゆえ,ICUにおいて,今,何の治療が何の目的で実施されて,チーム全体が何を求めている(期待している)のかを的確に把握できなければならない.さらに理学療法士はICUで実施されている治療指針をもとに,理学療法という治療手技をどのように組み込むかといった指針(本書では,理学療法のプログラミングと実際)を明確に伝えることができなくてはならない.まさに,これがICUにおける本来の“how to”であり,本書が伝えたい,神津先生が読者に訴えたいこと,と確信した次第である.この書評を読み共感できた方,そしてICUでの実践的知識を会得したい方に,ぜひとも本書を手にしてICUの現場に臨まれることを強くお勧めする.
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