- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
「スポーツ傷害の理学療法」は2001年に第1版が発行され,今回8年ぶりに改訂された.日常生活への復帰に比べ,かなりハードルが高いスポーツ復帰をゴールにするスポーツ傷害の理学療法に20年以上にわたり関わってこられた福井勉,小柳磨毅の両先生が責任編集をされている.医師,理学療法士,トレーナー,柔道整復師,鍼灸師など多職種が関わるスポーツ現場において,障害の発生機序を動作分析に基づいた運動力学的な視点で捉える技術は,理学療法の固有技術であり,理学療法士の王道であると思われる.関節運動や身体重心,運動連鎖などを踏まえた運動力学的分析に基づき,障害局所を把握するだけでなく,身体全体のメカニカルストレスについて考慮して全身的なアプローチを行うことが重要であることは,本書で一貫して述べられている.これらのことは,「理学療法士のアドバンテージであり,アイデンティティーである」と編者も強調しており,まったくの同感である.
本書の内容は機能解剖や運動力学的分析に基づいた評価,代表的なスポーツ傷害のメディカルリハビリテーションやアスレチックリハビリテーションのプロトコール,そしてコンディショニングまで網羅されており,さらにスポーツ傷害の予防やパフォーマンス向上に対して理学療法技術が応用できることにも言及している.「スポーツ傷害とコンディショニング」および第2版で新たに追加された「スポーツ傷害への地域支援」の章では,スポーツ現場において第一線で活躍する理学療法士の取り組みが紹介されている.スポーツ傷害の予防には他職種との連携があってはじめて可能となること,そして理学療法士としてこの分野で貢献しうる多くの秘めた可能性があることを認識させられる章である.また,選手と真剣に向き合い,信頼関係を築き上げてきた著者の熱い想いが感じられる.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.