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はじめに
慢性痛は,国際疼痛学会により「治療に要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛みあるいは,進行性の非がん性疾患に関連する痛み」と定義されている1).これには組織損傷など痛み刺激の入力による急性痛が長引いているものだけではなく,器質的な原因が治癒した後も神経系の可塑的変化などにより痛みが持続するものも含まれる.このような「慢性痛」では痛み自体が病態であり,一つの病気として考えられる2).
そのなかでも理学療法士が診療に携わる運動器疾患に伴う慢性痛の有病率は,厚生労働省の2013年国民生活基礎調査3)において,有訴者率の1位,2位に腰痛,肩凝りが挙げられているように非常に多い.全米の調査では慢性痛患者が成人人口の9%を上回り,痛みによる医療費や生産性減少での社会的損失が650億ドルにも上ることが報告されており4),日本においても,運動器慢性痛に関する疫学的調査では有症率が15.4%に上り5),2013年度総務省統計による成人人口104,860千人に換算すると約1,600万人が罹患していることとなる.そのため,運動器慢性痛による医療費や生産性減少による社会的損失も含めて大きな問題となっている.
運動器の痛みが慢性化する背景には,侵害刺激の持続入力や神経系・運動器系の可塑的変化といった身体的要因に加えて心理的,社会的要因が絡み合い,病態が複雑になっていることが挙げられる.そのため,薬物療法だけでは改善がみられないケースが多い.しかし,結果として患者の生活・社会的活動の低下を招いていることから,運動療法など理学療法の有効性が世界的に注目されてきている.そこで本稿では,運動器慢性痛への理学療法の現状を踏まえ,目標設定・治療の取り組みについて概説する.
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