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はじめに
1970年代の心理学的な理解では,子供にはうつ病をはじめとした気分障害を経験し得るだけの発達学的,心理学的な構造を持たないため,うつ病は存在しないと考えられていた1).そのため,気分障害は青年期以降の疾患として理解され,仮にそのような症状があったとしても,子供への認知的な介入は認知発達を必要とするため,効果は期待されておらず,実践報告は少なかった.しかし,1990年代後半にはさまざまな実証的効果研究により,認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)が子供のさまざまな症状や問題行動に有効であることが報告され,現在では最も効果的な介入法として各ガイドラインで広く推奨されるようになった2).
小児期に不安やうつなどの精神症状を形成したり,トラウマを経験したりすると,成人になって症状や問題が遷延化,複雑化するリスクが高まることが知られており,この時期からの適切なケアと予防を行うことは,成人における精神疾患の予防や治療を考えるうえでもきわめて重要であると思われる.成人の不安障害患者に対する後ろ向き研究では,不安症状を呈している患者の約50〜80%が児童期から既に不安障害を有していたという報告がある3,4).
子供はさまざまな出来事を経験するなかで試行錯誤的な学習を繰り返すことにより,出来事についてさまざまな予測を立てることができるようになり,その結果,固有の考え方のスタイルを構築すると考えられている.まだ独自の考え方のスタイルを十分に構築していない子供への介入は,成人と比較して効率的であると考えられる.そこで本稿では子供の心理的問題や認知的特性に触れ,CBTの各技法について解説したうえで,その実践例について紹介することとする.
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