甃のうへ・第18回
母であり,理学療法士であること
花崎 加音
1
1川崎リハビリテーション学院理学療法学科
pp.860
発行日 2014年9月15日
Published Date 2014/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551106764
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文字に記す自分史はないから,せめて気のおけない仲間に笑われないよう,ありのままに書こうと思う.今の自分は小学生のときに思い描いた職業にあらず,就職当時の理想の将来像とも違う.頭のなかに淡く平たく塗られていたものは懐かしく,想像し得なかった鮮明な陰影濃い彩り,これが現実だと実感する.
理学療法士としてのキャリアに,母としての自分をまったく想定していなかった私は自分の能力を勘違いしていた.両立は私にとって能力いっぱい,子の病気や行事ごとは待ったなしで明日は何があるかわからない.予定は極力立てるのをやめ,休日は子連れで残務を片づけた.わずかに心の余裕が生まれると,今度は焦りを感じた.私には何があるのか.何一つ積み上がっていない自分が情けなく思えたが,それでもこの仕事が好きだからと続けてきた.浮き沈みは繰り返されるように思えたが,長男が進学を意識する年頃を迎えたことが転機となった.その頃の自身の記憶もまだ錆ついてはいないから,わが子と自分を同じ時間軸に感じ,彼にも未来が溢れ,想像し得ない未来が待っていることに気づいた.出産のときの命への感動とはまた違った静かな感動が生まれ,同時に今,自分がしていることに等身大の自信を持つことができるようになった.母であり,理学療法士である.十分だ.
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