新たな50年に向けて いま伝えたいこと・第3回
上田 敏
pp.519-523
発行日 2014年6月15日
Published Date 2014/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551106664
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私は学生のころから脳や神経に興味があり,神経内科の先達がたくさんいた東大第三内科(冲中重雄教授)に入局しました.当時,神経内科は内科の一部でしたので,内科の疾患も幅広く経験したうえで神経内科を研修したのがよかったと思います.さらにいい経験になったのは,医師になって2年目に,開設したばかりの虎の門病院の内科でレジデントとして4か月ほど診療する機会を得たことです.そこで,市中病院では大学病院に比べて患者さんがずっとよくなることに驚きました.大学病院には特に治療の難しい患者さんが集まるのですね.まして,神経疾患は薬物や手術などでは治せないものが非常に多いですから,大学病院の神経内科だけで研修していたら,「病気は治らなくても仕方がないもの」と悲観論をもつようになっていたのではないかと思います.
そういう経験から,「内科疾患はそれなりによくなるのに,神経内科の病気はなぜよくならないのか?」と疑問を持つようになりました.神経内科は学問としては面白い.けれど,神経内科の先輩たちをみていると,非常に不遜な言い方ですが,「医者じゃなくて昆虫学者じゃないか」と言いたくなった(笑).珍しい昆虫をみつけて既存種との違いに着目し,新種であると発表して学名に自分の名前がつくというのが昆虫学者の最大の名誉です.神経内科の疾患も,例えばパーキンソン病やアルツハイマー病はまさに発見者の名前ですよね.新しい病気をみつけることによって後世に名前を残すことが生きがいになってしまっては医者ではないのではないか,自分はそうはなりたくない,と本気で悩みました.
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