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はじめに
筆者には,理学療法士の免許取得後10年以上経過した今でも,非常に記憶に残っている症例がいる.それは1年目に勤務していた通所リハビリテーションにて,回復期リハビリテーション病棟退院直後の脳血管疾患患者を担当したときのことである.麻痺側上肢に触れるだけで激しい痛みを訴える患者に対し,どのように対処すればよいのかわからず,ただ困惑し理学療法どころではなかった.その後,患者はある日を境にまったく痛みを訴えなくなった.当時はその原因がまったくわからず,自然治癒以外に説明ができなかった.今振り返れば,視床痛などの中枢性疼痛や複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)type Ⅰが疑われ,その疼痛メカニズムもある程度説明することができる.少なくとも「困惑するのみ」であった未熟な理学療法士の対応よりは,症例の状態に適した理学療法を選択できたはずであると大変悔やまれる.
あらかじめ断っておくが,筆者は決して「脳血管疾患の疼痛」を専門としている理学療法士ではないし,大学病院に勤務している理学療法士でもない.言い換えると,一般の理学療法士は臨床において前述のような「脳血管疾患の疼痛」に直面する可能性が高く,その対処方法も適切に選択する必要がある.しかし,いざ臨床で直面すると困惑する理学療法士も多く,それは臨床実習の場合でも同様である.
そこで本稿では,脳血管疾患患者にみられるさまざまな疼痛,神経由来の異常感覚,拘縮,廃用によって起こる関節痛等について,その疼痛の病態のみならず,さまざまな視点から評価方法,対処方法について解説する.また,近年増加傾向にある血管由来の疼痛についても言及する.
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