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1.はじめに
リハビリテーション(以下リハ)医療の領域では,いまや早期離床・早期起立は常識となっている.ところが,近藤1)は,脳卒中の急性期リハの是非をめぐる議論において,日本の実状は,リハ開始の遅れが「数日ではなく数週間である」ことを問題点として指摘した.このことからも分かるように,早期理学療法すなわち急性期における理学療法の可及的早期開始が必ずしも広く実行されているとはいえないようである.ここには,脳卒中において長年議論されている急性期の脳循環自動調節能と起立性低血圧の関係というリスク管理の問題,更に脳神経外科や内科などの主診療科とリハ科との連携の問題などがあるといえよう.
一方,バランス機能は,リハ医療あるいは理学療法の領域では日常的な用語であり,運動機能の一側面をなすものとみなされている.しかし,この用語を改めて考えると曖昧な定義であることに気づくのも事実である.リハ医学大事典2)によれば,バランスとは「身体の平衡」とされている.更に,「バランスには麻痺,筋力,筋緊張,内耳機能,小脳機能など多くの機能が関与する.“バランス異常”という語が安易に使われている傾向があるが,以上のどの機能の問題なのか分析的にみる必要がある」と記述されている.
つまり,バランス機能は,特定の1つの機能ではなく,様々な機能が統合された結果としての総合的機能ということができる.更に,その良否が問われるのは少なくも臥床状態ではなく,座位,立位,歩行などの抗重力姿勢においてであり,前述のリスク管理の問題とも大きく関連する.このことから,本邦において,早期理学療法とバランス機能の間には,リスク管理と他診療科との連携という完全に解消したとはいえない問題が存在し,両者の関係を直接的に論じることには大きな困難がある.事実,文献を渉猟してもそのような内容に出会うことはできなかった.
ところが,米国においては早期リハとバランスの問題が取り扱われている.ただし,早期リハがバランス機能にどのような影響をするかといった直接的なものではなく,早期リハが在院日数短縮に有効であるという認識から,その予後予測の指標の1つとしてバランス機能が取り上げられている.つまり,本邦の医療事情にも通底する経済的観点からの取り扱われ方である.
以上のことから,本稿では,まず脳卒中をめぐる早期リハの動向,次にバランス機能に関連する研究,そして米国における状況を概観し,そこから早期理学療法やバランス機能をどのように捉えるかという点について述べていきたい.
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