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1.はじめに
物理療法は,現在,我が国の専門的リハビリテーション医療(以下リハ医療)においては「脇役的存在」のように隅に追いやられているのが現状であろう.例えば,医師を対象とした「知っておきたいリハビリテーション・テクニック」という項目で,物理療法はほとんど無視されている1).また日本理学療法士協会が行った昭和57年度の実態調査においても,1週間の平均的理学療法業務では,運動療法(64.3%)が中心をなしているのに対して,物理療法はわずか15.2%に過ぎず,しかもこれを1週間に一度も行わなかった比率はホットパック治療以外は実に60%以上という結果が報告されている2).
しかし,実際の医療現場での普及度からいえば物理療法はきわめて一般的な治療手段である.日本リハビリテーション医学会物理療法機器小委員会が行った1994年の調査では,全国1,308の整形外科・リハ医療施設において牽引,低周波およびホットパックは90%以上の施設で,水治療機器,極超短波療法,それにパラフィン治療機器は70%以上の施設において設置されている3)(図1).
また同委員会が日本リハ医学会専門医400名を対象とした物理療法処方に関するアンケート調査によると,回答した303名のうち物理療法を処方すると答えた者は271名(89.8%)であり,うち91名(30.0%)は大いに処方すると答えている4)(表1-a).処方頻度の高い機器は,ホットパック治療器,電気(低周波)治療器,牽引治療器,パラフィン浴治療器,極超短波治療器の順である(表1-b).これは前述の1994年実施された物理療法機器の設置状況調査とほぼ同様の結果となっている.対象疾患と使用機器に関するクロス集計の結果では,電気治療器は末梢神経麻痺,極超短波治療器は肩関節疾患,パラフィン浴治療器は慢性関節リウマチ,ホットパック治療器は肩関節疾患と腰痛,水治療法機器は外科手術後に,そして牽引治療器は頸部脊椎症に多く使用されている(表2).
一方,岩谷ら5)の全国625の整形外科・リハ医療施設を対象とした物理療法に関する調査では,開業医においては1日当たりきわめて多数の患者に物理療法が実施されているが,その実施者は理学療法士でなく,多くはマッサージ士や看護婦が主体であることが明らかとなっている.このことは理学療法自体が「業務独占」ではなく「名称独占」であるという事実を差し引いても,物理療法が医療現場での必要性が高い反面,実際面では軽視されていることを如実に示している.
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