- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.はじめに
人類が約20万年前に直立二足歩行を完成させ,その後の進化に大きな影響を及ほしたことは確かであるが,同時に直立二足歩行からくる腰痛が出現していたことは,脊椎の化石標本などによる特徴から明らかにされている1).そして,この腰痛が職業上の労務に関連して発生した場合,特に「職業性腰痛(industirial low back painあるいはOccupational low back pain)」と呼ばれ2),企業人にとって重大な社会的問題として蔓延している.
職業性腰痛とは,単に職業起因性腰痛として,職業との相当な因果関係を有する腰痛のみに限定した概念ではなく,更に幅広く,職場での対策,特に予防対策を講じることによってその発症を予防し,経過を良好に導くことのできる腰痛である3),我が国と同様,米国でも腰痛は深刻な問題であり,作業関連腰部障害は全ての産業およびサービス部門に対して重大な損失を与えている.そのため,腰痛を減少させ関連コストを減少させることは,米国の多くの企業の関心事となっている4).
なぜ,このように腰痛が社会問題として扱われるのか,そして,なぜ産業場面において腰痛が起こりやすいのか,それは個々の企業人が腰痛を引き起こしやすい環境下で労働・生活しているからではないかと考えられる.また,企業人は各個人によって生活様式,運動習慣,勤務体系,労働条件などが多種多様であり,各種環境に依存するところが大きいため,いかなる要因によって企業内において腰痛が発生し得ると考えられるのか.もし,腰痛の発生と労働・生活環境との間に何らかの因果関係が認められるのならば,それには一体どのような因子が影響しているのか.
そこで本稿では,企業立病院である当院において,企業内の労働・生活環境における腰痛発生頻度について調査した結果を基に考察を加えることにしたい.今回の調査は,企業内における腰痛発生因子の明確化と腰痛の治療および予防を行うためのアウトラインの作成を目的として行ったものである.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.