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1.はじめに
筆者は理学療法士であり,また身体障害者スポーツ指導員として,リハビリテーション,特に療育(ハビリテーション)のなかに積極的にスポーツを取り入れ,身体障害児の訓練・治療に役立てている.筆者が勤務している浜松リハビリテーションセンターでは,身体障害児の体力の向上や運動機能の改善,社会性の育成,そして自己の才能の開花を目的として,20数年来,理学療法の一環として,療育のなかに積極的にスポーツを取り入れてきた.
理学療法士になって身体障害児に治療・訓練として理学療法を実施してきたのであるが,筆者自身,理学療法の在り方にいささか疑問を持っていた.子どもたちにとって理学療法とは何なのか? 理学療法は子どもたちにとって将来何の役にたつのか? 理学療法によって子どもたちや家族にどんな幸せをもたらすことができるのか? 子どもたち自身が目的をもって理学療法に取り組めるようにするにはどうしたらよいのか? 主役は誰なのか? といった素朴な疑問である.
主役は子ども自身であり,家族に他ならない.今まで子どもたちは,漠然と目的も持たずに何となく理学療法を受けてきたのではないか,と感じていた.この子どもたちのリハビリテーションのゴールはどこにもっていったらよいのか,という疑問もあった.このことは障害児に限らず,障害者全体にいえることかもしれない.
そんな疑問を解いてくれた出来事があった.それは,筆者が身体障害者スポーツ指導員として,平成元年札幌市で開催された第25回全国身体障害者スポーツ大会に静岡県選手団のコーチとして参加したことがきっかけだった.筆者にとってこの大会は貴重な経験で,参加した者にしか分からない感動,様々な人々との出会いとドラマ,開会式や閉会式,とりわけ入場行進に参加して感激に心が震えたのを覚えている.そのとき,リハビリテーションの1つのゴールはここにあるのではないかと実感した.リハセンターの子どもたちをこの大会に連れてこようと決意したのもこの時であった.
子どもたちが目的や課題をもって理学療法に取り組むことの大切さを痛感し,子どもたちと一緒にスポーツをしながら,リハビリテーションのゴールに向かって理学療法を展開できたらと思った.すなわち,理学療法が人間の生き方に少しでも関与できないかと考えたのである.それ以後,全国身体障害者スポーツ大会の静岡県選手団監督・コーチの経験を生かして,理学療法のなかにスポーツを取り入れ,施設内だけのスポーツに止まるのではなく,施設外でのスポーツへと転換を図っていった.
本稿では,身体障害者スポーツの意義について簡単に触れ,施設内外の理学療法業務としての当センターにおける身体障害者スポーツへの取り組みと静岡県身体障害者スポーツ大会について紹介しながら,身体障害者スポーツに対する理学療法士のかかわり方について考えることにしたい.
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