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1.はじめに
医療集団に限らず,教師集団でも,その他いわゆる対入サービスを職務とする専門家集団のマネジメントの問題は難しいとされている.特に専門職を擁する職場のチームワークについては,ケース・バイ・ケースで語られることはあっても,総括した議論は必ずしも多くはない.それは多分に職種の特殊性に由来する集団独特の風土性に帰因するからであろう.しかし,専門職のチームワークを語る時に,共通してあがる言葉は,“船頭多くして船山に上がる”という諺である.文字通り,指図する人が多くて,各自,自分中心の目標を立て,言うことも各自バラバラということだろうが,これがそのまま専門職のチームワークに該当するものではないだろうが,あながち無関係ともいえない.すなわち,現実はそんなあからさまな個々人の勝手な振る舞いの問題ではない.専門職としての技能発揮を期待する組織風土,職場の集団的特性が関係しているのではないかと考える.
専門職は基本的に高学歴であり,かつ長期間にわたって専門教育を受けているものたちである.すなわち,個人としての自己学習歴は長く,そして深い.しかし,専門的教育とは裏腹に,組織人としての学習は必ずしも受けていないだろう.勤務している病院や教育を受けた学校においては,ピラミッド状の組織体制が通例であり,そのなかでの学習は,権威と保護によってなされてきたと考えることができる.とすれば,組織人としての学習成果は,教授・先輩らの権威主義という風土のなかで,教授・先輩に対する依存という学習スタイルが予想できる.このことは,組織のなかでは勝手な自己決定はもちろん許されるものではなく,むしろ上位職に対しては順応的で従順な行動スタイルが期待されていることを意味する.
教育を受けた学生時代から実践現場の職場にまで,専門職集団独特の掟に合わせながらの対人関係処理スキルは,職業を通して自己実現を果たそうとする職業キァリアの発達的・心的エネルギーを抑制する.自己の感情を抑え,集団状況に適合する行動は,個人の側にはストレスを生み,組織・集団の側には不完全燃焼の組織風土を生み出す.ここでは専門職のチームワークを活性化するための方策を探ることが課題であるが,以上の推論のうえに立って,専門職から自らの自己実現パワー発揮の阻害要因を集団力学的視点から考察していくことにする.
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