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はじめに
平成8年4月には理学療法士学校養成施設(以下,養成校)は91校になった.それらの多くの養成校は,卒業時到達目標を「基本的理学療法ができる」というレベルに置いている.それは,卒業時の能力で一般的な疾患を対象として,理学療法(以下,理学療法士も含めてPT)の提供が責任を持って全うできることを意味している.そしてその責任を果たすためには,卒業前に一定の量の臨床体験をしなければならないことは必須要件であろう.
この「卒業時基本的PTができる」という目標は,1人職場に就職した場合への対応,地域リハビリテーション活動に参加した場合への対応,現場から採用イコール即戦力と求められていることへの対応,法律制定時はドイツなどを手本とするヨーロッパ的PT観が重んじられていた等多くの環境的要因によって作られたものである.そのために,一定の臨床体験をする附属医療機関を持たない養成校は,独自の教育能力だけでは達成できない無理な目標と承知の上で作られたものである.
日本の養成校には附属医療機関が設置されていないために,PT教育にとって欠かすことのできない大切な臨床技能のカリキュラムを実施できないのである.1995年の渡辺5)らの調査によると,養成校57校中わずか3校が同一敷地内にある関連医療機関を普段からよく活用しているという結果が出ている.ほとんどの養成校は学外医療機関の協力を仰いでいることになる.このため,新設校の急増と共に臨床実習施設の奪い合いに近い様相を呈している.
さらに臨床実習施設の問題は,このような数の問題だけでなく,学生がPTを行うという無資格診療の問題,臨床実習施設間で生じる教育効果の格差や,環境の差など多くの問題を含みながらも,養成校は是非引き受けて下さいと協力を懇願している.
このような問題の解決法の1つが「臨床実習前教育の充実」であり,特に有意義な臨床実習を体験することができるための「基本的技能」を臨床実習前に可能な限り高いレベルで習得させておくための教育の充実が大切である.今井の報告6)や沖田らの報告7)にあるように,各養成校でもこの点に重点を置いて教育していることが伺われる.しかし,いくら学内教育を充実しても,学内の授業で学生や教員を相手に模擬体験しただけの技能が臨床でそのまま通用することは稀であることは強調しておくべきであろう.
今回は,川崎リハビリテーション学院(以下,川崎リハ学院)での21年間の教育経験と川崎医療福祉大学リハビリテーション学科(以下,大学リハ学科)2年間の経験を整理しながら,精神運動領域といわれているPT技能について,獲得すべき技能の内容技能獲得の手順,技能の到達レベル,技能指導方法の各種工夫等について紹介する.
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