とびら
人―歴史とともに
長谷川 弘一
1
1秋田県太平療育園
pp.685
発行日 1996年10月15日
Published Date 1996/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551104612
- 有料閲覧
- 文献概要
私の両親は今,それぞれ癌と戦っている.2人ともすでに進行してしまった末期癌ではあるが,幸いにもまだ自分たちが癌であるとは知らない.父は手術によって病巣を取り除きはしたが,再発する可能性が高く余命は1年程といわれている.母は医師からあと数か月と診断されてしまった.
父は8人弟妹の長男として,母は7人弟妹の長女として生まれ,それぞれ病気がちな祖父母にかわって幼い弟や妹を養うために若くして働きに出た.朝から晩まで働き通しで,それぞれ何度か体をこわしたと聞いている.頑固おやじそのものであった父と,耐えることを美徳とした母が知り合い結婚したのは,戦後の復興が始まった頃だった.貧乏のどん底だったと母が教えてくれたことがある.父は独身の頃より働く時間や場所が多くなり,ますます頑固さに研きがかかったらしい.母はその日の食べ物を探しに出かけ,何時間も町や村を歩いたこともあったという.わがままな性格の父と,忍ぶ心をもつ母,相性はぴったりだったのかもしれない.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.