特集 日本の医療制度
医療制度の歴史および歴史観
丸茂 重貞
1
1日本医師会
pp.18-21
発行日 1961年4月10日
Published Date 1961/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202303
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はじめに
「はじめにやまいありき」.日本の医療制度の歴史なり歴史観を考えるとき,まず第一に浮かぶことは,この言葉でなければならない.疑いもなく原始の人々は,病気や傷病という異常な現象に驚異し,当惑して為すところのなかつたことは容易に想像出来る.人体の解剖も病理も組織も,いずれにも皆目知識の無い人達にとつては,自分達の知慧の範囲で,想像も及ばない恐ろしい出来事に対しては,自分達を絶対に支配していると信じている神々の怒りに触れたため,と解釈するよりほかなかつたであろうし,また止むを得ないことでもあつたろう.
そこで病気に対する措置は,まず神々の忌諱に触れた者のゆるしをひたすら乞い,そのためには相当な犠牲を祭壇に捧げることによつて,祈祷をなり,あるいはすでに病いに冒された者達は,神神に見捨てられた者であるという見地から,これらの人達を自分等の部落から遠く隔つた地に棄て去つたのであつた.この影響は原始の時代から近代に至るまで,祭祀の形で根強く残つており,現代においても一部の宗教になお,祈祷により疾病を治そうとする風習が残つているほどである.一方病者を捨て去る風習は,日本においても江戸時代の中期まで,はつきりその姿を残しているのである.
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